2. 自殺志願(2)
「ほら、やっぱり飛ぶじゃないか」
「えー。俺の負けかよ」
誰もいないはずの屋上に人の話し声。
私は、手すりにかけた手を握りなおし、振り返った。
そこには、真っ黒な洋服を着て、髪をひとつに結んだ、冷たいほどに切れ上がった目をしたイケメンと、真っ白な洋服を着て、優しそうなイケメン。
そして、負けを認めてるのは、黒いほうだ。
「飛ばないと思ったんだけどなぁ」
腕を組んで、考え込んじゃったよ。
「ほら、死ぬって言ってるんだから、早くよこせよ」
「待て待て、完全に飛び降りたら渡すさ」
よこせとか、渡すとかって……まさか、コイツラ、私が自殺するかどうかで賭けをしているのか?
それにしても、こういう時って、大体白い方が飛ばない方に賭けるものだけど、どうしてだか黒いのが飛ばない方へ賭けてる。
しかも、どっちもイケメンだけど、黒い方が私のタイプだったりする。
「早く飛べよ。というか、早く落ちろよ」
白い方が私に念力(?)を送ってる。
そう言われると、逆に白けて飛ぶ気がなくなる。でも、面白いからしばらく二人の話を聞いていた。
あれ?
よく考えてみたら、この二人空中に浮かんでる。
地面に足がついてないじゃない。
なんで?
しかも、風が吹いてるのに、何で髪も服も風に揺れてないんだ?
これって、人間にあらず?
てか、人間じゃない??
「なにを考えてるんだろうね~ さっさと自殺決行しろよ」
白いヤツが言ってる。
「いやいや、おばあさんが言ってただろ。死んだら損だって」
え?
なんで知ってるわけ?
おばあちゃんと友達とか?
「損でも得でもいいさ。俺たちには関係ないんだから。それに、ここでのんびりと自殺を楽しまれたら、仕事の妨げだよ。こういうやつは、とっとと落ちてくれないと」
白の性格はいたって、冷たいらしい。
というか、コイツら私の行動で賭けてるけど、本当に誰だよ!
「仕事のこともあるけど、まだ死ぬ必要はない子じゃないか」
黒が白を止めてるよ。
「そんなだから、お前はダメなんだよ。俺たち死神に情けは禁物さ」
「そうかもしれないけど。この子は、死ぬ時期じゃないだろ」
「死にたいんだから、死ねばいいのさ」
どうやら、二人は死神らしい。
死神って黒のイメージだったけど、白もいるんだ……。
黒は見た目と違って優しいのかな。
それにしても、死のうと思ったときに死神が現れるって、本当だったんだ。
死神って、頭巾をかぶって大きなカマを持ってると思ったら、結構なイケメンだったのね。
でも、賭けをしてるというのが、なんとも納得がいかないけど。
「今月、12勝3敗だな」
「俺は、3勝か」
「どうせ、今回も俺の勝ちだから、よこしちゃえよ」
白と黒が、出せとか出さないとか、人の死をおもちゃにしてる。
なんなの?
これじゃ、死ねないよ。
それでも、もしも私が手すりを持ち直して、身を乗り出したら、コイツラどうするんだろう?
そう思ったらやってみたくなった。




