19. 天使か悪魔か(1)
言われるままについて行くと、普通に住宅街に到着した。
「ここって?」
デスは無言で、ひとつの家の窓を指差した。
時間は深夜0時を回ろうとしている。
それなのに、カーテンが閉められることもなく、小さな明かりが点いている。
「中を見てみろ」
「見てみろって、それって覗きじゃない。悪趣味だな~」
「バカ! そんなことじゃない! いいから、見てみろ」
しょうがない、言われるままに覗いてみた。
もちろん、相手にこっちの姿が見えるわけじゃないんだけど、なんとなく道徳心ってヤツが湧いてきて、覗くように見る形になる。
すると、月明かりと部屋の小さな明かりの下で、中学生くらいの男の子がカッターを握り締めて体育座りして泣いている。
「泣いてるね~」
「……」
デスを見ると、哀しげなそれでいて、冷たそうな目をしていた。
内心、どっちやねん! と、突っ込みたくなった。
だって、哀しんでるのか、冷めてるのかわかんないじゃない。
「親に怒られたんじゃないの? 弟も母親に怒られると悔し泣きしてるよ」
「……親に怒られたぐらいで、カッターを握り締めるか?」
「あ・あ~。カッターと会話中かもね」
「……」
「だから、ここはそっとしておいて帰ろう」
デスの蔑むような視線を感じたけど、できることなら関わりたくないじゃない。
前回だって、デスに急き立てられて、関わりたくもないのに、関わって死にはぐったわけだからね。まぁ、そのおかげで幽体離脱自由自在なんてこともあるんだけど。
「お前には血が通っていないのか?」
「血なら通ってるでしょ。普通に。切ってみる? 痛くしないでね」
「そういう意味ではない!」
分かってるわよ。分かってるけど、ここはボケて交わす作戦を取ったんだよ。
不発だったけど。
「あの子を助けてやってくれ」
「簡単に言うけど、無理でしょ! 私は今実体がないんだよ。それなのに、どうやって助けるってか? 例えば実体があったとしても、知らないお姉さんが急に部屋に現れたらおかしいでしょ。それだけで騒ぎだわ」
「あの子は、あのままでは自殺してしまう」
「だからね、聞いてる? 助けようがないって言ってるでしょ。助けようがないのに、どうやって助けるって?」
「あの子は、まだやるべきことがあるんだよ。死んではいけない」
「だ~か~ら~。私では無理だから。だったらさ、とりあえずリスカさせて、親に何かの形で気づかせて、救急車を呼ばせようよ。それが一番自然でしょ」
「……あの子は、生きるべき命なんだ」
デスの目がどんどん冷たくなってきた。
なんか、このまま突っぱねたら、私が殺されそうな勢いだ。
「わーかったよ! どうしたらいいの? 妙案はあるわけ?」
もう、こうなったらしょうがない。やるしかないでしょ。
でもね、前回みたいに一か八かで声を掛けるなんてできないからね。さぁ、どうするよ!
「あの子の部屋に入り、声を掛けろ」
「そんなことしたって、あの子に私が見えなかったら、意味ないじゃん!」
一応反論してみた。デスに通用するとは思ってないけど。
「大丈夫だ。私は、神だ!」
こんなときだけ神様ぶる~。
まぁ、いいや。神だって言うんだから、それなりに考えがあるんでしょう。
はいはい、やるわよ。やってやるわよ。
ということで、壁をすり抜けて、少年の前に進み出た。
でも、なんて声を掛ければいい?
ちょうどカッター探してたんだよね、貸してくれる? とでも聞くか?
それとも、いいカッターだね、とでもいいますか?
大体、前回もそうだったけど、デスは結構人任せなんだよね。
ヤレって言うだけで、どうしろって言わないんだから。マジ、ウザイ!
「え、え~とぉ」
果たして、少年に見えているのか聞こえているのか、それすらも分からないけど。とりあえず、声を掛けないと進まないから、頑張ってみた。
すると、少年は私の声が聞こえたのか顔を上げた。
「誰?」
「……あずみ」
「あずみ? 天使? それとも、悪魔?」
天使と悪魔しかないのか?
てか、それってゲームのやりすぎでしょ!
人のことは言えないけど。