16. 夜の散歩(2)
夕飯を食べていても頭の中は幽体離脱で一杯だった。
さっきは弟に邪魔されて、部屋から出ることができなかったけど、何とかできるようになりたい。それには練習あるのみじゃない。
「夕飯の片付けを手伝いなさいよ」
という母の言葉に、『頭が痛いから寝る』と逃げた。家族は、心配そうに目配せしてたけど、自分の欲望を満たすためには、多少の犠牲はしょうがない。
演技は女優さながらに、さっきまでガッツリと夕飯を食べていたのが嘘のように、頭に手を当てながら、うつむき加減に居間を出た。
これには、さすがの母も何も言わなかった。
退院したばかりと言うのは、めちゃくちゃ都合がいい。
さて、自室にこもると寝た振りをすべく電気を消して、ベッドに横になった。
そして、すぐに自分から飛び出す、次に部屋の壁をすり抜けるイメージを膨らませた。
体から出るのも簡単だったんだから、部屋から出るもの大してかわらないだろう、と思ったらやっぱりできた。
私って天才かもしれない。
外に飛び出すと、体に羽があって、夜空に飛ぶイメージを持ってみた。
やっぱりできちゃう。
もう、絶対に天才!
こうなると、夜の散歩をしたくなる。
だって、今までは夜遅くに外をふらつくなんて不良のする事だって、絶対に許してもらえなかった。
それが、今は誰にも咎められることがないわけだ。
しかも、満月とはいかないにしても、それなりに月はきれいに光ってるし、やってみたいことや行って見たいところがある。
夕飯を食べながら考えていた場所へ、イメージを膨らます。
飛ぶことは簡単。進むことも簡単。
でも、ここで大事なことに気がついた。
それは、場所を知らなければ進むことができないということだ。
右に行ったらいいのか、左なのか。南なのか北なのか?
これじゃあ、行きたい場所があっても、行くことができない。
(しょうがないな、今日のところは近場で我慢するか)
多少のため息を交えながら、夜の散歩を楽しんでいた。
家の近くの公園は、昼間とは違って誰もいない。当たり前だけど。
駅へと飛んでみれば、疲れきったおじさんたちが俯きながら歩いてる。
ゲーセンに入ってみたけど、実体のない自分には何もできなかった。
映画館なら無料で楽しめるはず!
と駅前の映画館に行ったけど、時間的に映画館自体が閉まってた。泣ける……。
こうなると、大人の娯楽であるパチンコ屋に行ってみたかったけど、これも行ったところで何もできないだろうし、カラオケに行ったところで、私の声が聞こえるわけもないから、誰も拍手をしてくれない。結構寂しいね~。
いろいろ考えて、できそうなことをやってみたけど、無駄な努力なのだと知った私は、空中で寝そべりながら浮遊してた。
こうなると、幽霊と変わらない。
だからって、温かいベッドに戻って寝てしまおうなんて思わないけどね。
だって、やっぱり楽しいから。
できることなら、幽体離脱仲間がいてくれたらもっと楽しいかも。
「こんなところで会うとは、奇遇だね」
仲間が欲しいと思った矢先、急に声を掛けられた。
寝そべっていた体を起こして、声のする方へ視線を向けると、なんと真っ暗な空に真っ白なシロがいるではないか。