13. イメージしたらできること(1)
人間離れした生命力のおかげか、人並みはずれた悪運の強さのおかげか……。
まぁ、どっちにしても素晴らしい回復力で2週間もすると退院した。
退院するまでは、天使のように優しかった母親も、退院と同時に今まで通り元気(?)になった。
ということで、松葉杖をつくこともなく、自分の足で歩いて学校へ出かけた。
家にいても、母親の監視が厳しすぎるからなんだけどね。
「それにしても、自殺者の替わりに自分が自殺するなんて、あずみも人がいいよね~」
いつの間にやら、私は自殺したことになってる。
しかも、お人好し扱いされてるし。
「でもさ、あんな高いビルから落ちて生きてるんだから、人間離れしてるよね~」
確かにそれは否定できない。
「どこか普通じゃないと思ってたけど、やっぱりあずみだよね」
クラスの女子たちは最高のネタが登校してきたとばかりに、言いたい放題だ。
そりゃあさ、これだけのことをして話題にも上らないよりは、笑いのネタにされてでもいじられた方がいいけど。まるで人間に非ず的な発言は、実際めげる。
「でも、どうしてこれからデートって時に人助けに走っちゃったの?」
これからデートってことまで知れ渡っているのか。恐るべし、女子力。というか、女子のネットワークのすごさだよね。
もちろん女子だけじゃなく、男子も同じように騒いでくれた。おかげで、久しぶりの学校がいつも以上に楽しかったけど。
できることなら、『大丈夫?』の一言が欲しかった。無理だろうけど。こうなるともう、笑うしかない。
先生まで私の顔を見るなり、『普通の人間なら死んでたな』って……。
全く、なんて学校なんだろうね。
そんなこんなで、明るく楽しい一日が終わった。
さっきも言ったとおり、久しぶりの学校生活だったから、今まで以上に疲れちゃって、さっさと家に帰ってきたけど。
母親は、帰宅した私の顔を見て、ちょっとだけホッとしてたみたい。なぜちょっとだけかと言うと、すぐに小言が始まったからだ。
ということで、今は自分の部屋にこもってる。
やっぱり自室が一番だよね。落ち着くのはここって感じ。
制服を脱いで私服になり、ベッドに寝転ぶ。
病院のベッドで散々お世話になったゲーム機を取り出して、ピコピコと画面と戯れる。
これぞ、人生最高の時間!
しばらくゲームに熱中してたけど、ふと頭の中に浮かんできたものがある。
それは、病院で体験した幽体離脱ってヤツだ。
ゲームの中のキャラクターを左右に動かしながら、ぼんやりと考えた。
(あれって、あの時限定の貴重な体験だったのかな……)
もしも、あれがあの時限定だったとしたら、なんともったいないことをしたんだろう。
だって、体が浮いてたわけだよ。と言うことは、飛べちゃうってことじゃない?
どこでも行けるし、電車もバスも乗り放題。観覧車だって遊覧船だって、無料で乗れるわけだよ。映画だって、カラオケだって、やりたい放題見放題ってことだったんだ。
惜しいことをした。
マジ、もったいないことをした!
(できることならもう一度!)
本気で、そう思う。これって、私が特別だからそう思うってわけじゃないと思うんだけど。
誰だって、無料で楽しめるならやってみたいと思うでしょ。
(どうやったらできるんだろう)
ああかなぁ、こうかなぁと考えていたら、急にデスが現れた。
(イメージすればいいのさ)
その声にビックリしながらも、声が聞こえた方に顔を向けると、私の机に座って長い足を組んでる。
幽体離脱したあの日から、ずっと会っていなかっただけに、急に現れるとかなり驚く。
驚きながらも、やたらと顔が熱くなってるのが分かる。しかも、妙にドキドキしちゃってるし。
なんだろう、この感覚は。
え? もしかして、恋?