12. 幽体離脱(2)
(でもさ、大したことない割りに、包帯ぐるぐるだし、モニターもついてるし。結構、大したことあるんじゃないの?)
(そりゃ、生身の人間があの高さから落ちたんだ。全くなんともなかったら、逆に変だろ)
バカじゃないのかと言い放つぐらいの勢いで、シロが言う。つまり、シロは私に宣戦布告してきたようなものだ。
ちょっとイケメンだからって、いい加減にシロよ!
(さすがに……あの高さだからね。ある程度のダメージはあるよ)
冷静に話すデスは、まるで氷のように言葉が冷えて聞こえる。
そこもまた、素敵なんだけど。
(それにしても、うちの母親があんなに取り乱すとは思わなかった)
お母さんは、今もなお「あんたって子は!」と言いながら、泣き崩れてる。
どんなに口うるさくても、やっぱり母親なんだなぁって、ちょっと胸が熱くなった。
(おっと!)
人が胸を熱くさせてるときに、シロが変な声を上げた。
(なんだよ)
(この病院で死にそうなヤツがいるのさ。オレはそいつの魂をいただきに行くぜ。お前はどうする?)
(……その人は、お前に譲るよ。他にも仕事はあるからな)
(カッコつけてると、クビ切られるぞ)
どこの世界にも、クビというのもはあるらしい。
死神がクビになったら、何になるのか興味がある。
(ねぇ、死神をクビになったらどうなるの?)
デスがチラッと私をみて、視線をそらせた。
その、チラ見がまた冷えてる。
(消えるのさ)
シロが面白そうに言う。
(消える?)
(そうだよ。死神でも神だ。神の仕事ができないなら、消えるしかないだろ)
(抹消?……デリート。ゴミ箱……削除)
消えるというと、そんな言葉が浮かんでくる。
(オレは、データじゃない)
そんな、ボソっと言わなくても。
(まぁ、似たようなものさ。神として消える。その後は、人間になるものもいるし、完全に無になってしまうというのもある)
(デスは?)
(……そうならないように、オレは散々カッコつけるなって言ってるんだよ)
ちょっと真面目にシロが言ってる。案外いいヤツかもしれない。
その説明を最後に、シロはパッと消えた。
多分、仕事をしにいったんだろう。
(デスは行かないの?)
(ひとつの魂を取り合っても仕方がない。オレは、人間としての仕事が終わった魂だけをもらう)
(カッコつけ主義)
ヤバイ、つい本音が。
(何とでも言え)
視線が鋭く私をさすけど、しょうがないよね。嘘つけないから。
(そういえば、この間私の自殺で何かを賭けてたみたいだけど、あれって何を掛けてたの?)
死神が何を賭けているのか興味があるじゃない?
だから、せっかくのタイミングだから、聞いてみた。
するとデスは、ふっと口元を歪めて、静かに言った。
(魂)
一言で終了~。
さすがは死神だ。
でもさ、なんか『やっぱりね』的な答えってつまらない。
(ところで、私はいつまで浮かんでなくちゃならないの?)
さすがに、幽体離脱を続けてても面白くない。というか、どうせならどこかに遊びに行きたいけど、さっきから大泣きしている母親を安心させてあげたくもある。だから、そろそろ本体にもどって元気だよとアピールしたくなってきたんだ。
(体に足を入れればもどれる)
そんな簡単なものなのか?
まぁ、嘘かまことかやってみるしかないじゃない。
私は、自分の体に足を突っ込んでみた。
すると、すんなりと体に私がおさまった。
「あ……あずみ! 目を覚ましたのね! よかったー」
お母さんもお父さんも、目を開けた私に大喜びしてるけど、意識が戻った私は大きな後悔をしてる。
だって、こんなに体中が痛かったなんて思わなかったんだもん。
だったら、もっと幽体離脱したままでいればよかった。
天井を仰げば、デスがおかしそうに笑ってた。