良い夢見装置
そいつが来たのは中学のある夏の日のことだった。あの時から俺の運命は方向転換したに違いなかった。
「美佐雄ー!!」
母さんの声だ。せっかく漫画が良いとこだったのに……。俺はのろのろと体を動かして部屋の外に出た。
「何ーー?」
僕は苛々しながら返事を返した。
「ちょっと下に来て」
母さんはそう言ってリビングに入ってしまった。
「何だよ」
俺はぼそりと呟いたて重い足取りで階段を下りて行った。リビングに入るとテーブルに中くらいのダンボールが乗っていた。ダンボールに『良い夢見装置』と書かれている。
「これ……たのんだ?」
「たのんでないよ」
僕は冷たい声でそう発した。
「変ねぇ……。お父さんも頼んでないって言うし……」
母さんは顎に手をあてた。俺の家は4人家族だ。俺、母さん、父さん、それにおばちゃんだ。でもおばあちゃんは寝たきりでとてもに物をたのむという行動はできないだろう。
「宛先誰になってるの?」
「書いてないのよぉ。送り主も書いてないし」
母さんは困ったように呟いた。
「まぁ、良いんじゃん?俺、それ貰うよ」
俺はダンボールを抱えて歩きだした。結構重い。
「ちょっと美佐雄ーー」
「細かいこと気にするなよ」
何だかこの良い夢見装置が俺には気になって仕方ないんかっただ。俺は部屋に入ると早速ダンボールを開けた。
中に入っていたのはノートパソコンのようなものにコンセント、線の付いた黒い生地の帽子、取り扱い説明書が入っていた。俺は取り扱い説明書を手に取って見た。どうやら良い夢見装置とは見たい夢を見る為の機械らしい。注意事項にはもちろん水にぬらさないこと、直射日光に長時間当てないことなど普通に考えられるものが殆どだった。
しかし、1つ気になるものがあった。使い過ぎないこと、と。俺にはその時、その意味よくわからなかった。
そして俺は取り扱い説明書の言うとおりにノートパソコンと帽子を繋げ、さらにコンセントに差し込み、電源をいれた。ノートパソコンに画面がついた。画面には見たい夢の内容、と書かれている。何にしようか、と俺は一瞬考えたが、何度も使えることだしと思い『綺麗な20代の水着の女の人に囲まれる夢』と入力した。次に帽子を被り、そこら辺に転がっていたクッションを枕変わりにしゆっくりと目を閉じた。 「み・さ・お君〜」
と黒の髪の長い美白の水着姿の女性が立っていた。
「きっ君はー」
顔がばっと熱くなるのがわかった。
「美佐雄君〜。私の方も見て〜」
金髪のぱっちりとした目が可愛らしい女性がいる。もちろん水着だ。
「美佐雄様〜。私の方も……」
そこにはタテロールのいかにもお嬢様タイプの女性がいた。
「みてるよ……」
「イヤー私も!」
「私の方を見てよぉ」
「私を見てよぉ」
気がつくと周りには沢山の水着の美女がいた。まさに天国と言えよう。
「美佐雄ー!!」
突然おばさんな声らしきものが耳にはいった。何だか聞き覚えがある。
「キャーッ」
と言って水着の美女達は走ってってしまった。
「美佐雄ー!!」
何だこの声は。
「ちょっとぉ、俺の美女達〜」
俺は必死で叫んだ。
「美佐雄ー!!」
気がつくといつもの僕の部屋だった。
「美佐雄ったら、全然起きないんだから。ご飯だよ」
あの恐ろしい声は母さんだったのか……。それにしてもこの機械で好きな夢が見れるというのは本当らしい……。
俺はその日またあの良い夢見装置を使うことにした。今度は『悪を潰す、正義の味方、スーパーマンになる夢』と。そして俺はまたゆっくりと目をつぶった。 「キャーッ助けてぇ!!」
1人の黒くて長い髪の毛の少女は泣きながら叫んだ。
「無駄だぞよ。お前はもう俺のものだ。はーはっはっはっはー!!」
といかにも悪者だという顔をした奴が少女の腕を掴み笑っている。
「待てー!!目からビーム!!」
すると俺の目からビンビンという音をたて奴の顔に光線のようなものが当たった。
「うわぁっ」
「きゃあっ」
悪は軽く吹き飛ばされ少女はそこに倒れこんだ。俺は少女の所に走り
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
と優しい言葉をかけた。
「えぇ……」
少女はゆっくりと体を起こした。
「おのれぇー!!」
奴はいつの間にか立って何やら怒鳴っている。
「しぶといやつめ……」
俺は高くジャンプし悪を蹴った。まぁ、いわゆる跳び蹴り。
「ぐはぁっ!!」
奴はそのまま倒れ込んだ。
「おのれー!!覚えとけー!!」
奴はそう行って走りさってしまった。
「頭の片隅に入れておこお……」
「あの……」
声がする方を見るとあの少女がいた。
「ありがとうございました」
少女はほんのり頬が赤くなっている。
「俺は当然のことをしたまでだ。さらば!!」
そう行って俺は空へ飛んで行った。
「ジリジリジリジリー!!」 「良い夢だった。」
俺はそう呟いて目覚ましを止めた。
俺はそれ以来良い夢見装置を寝る度に使った。
『総理大臣になる』『世界征服をする』いろいろ打ってきた。あまりにもその夢が楽しく、友達から遊びの誘いがこようが俺は全て断りこの機械に没頭した。さらに勉強の面でも俺は寝てばかりいたので成績は落ちる一方であった。しかし、俺は機械に没頭し続けた。そして10年……20年……と月日は立ち、俺はこの良い夢見装置以外に何も持たないホームレスとなった。俺は気付かなかったんだ。夢は所詮夢であり、現実ではないことを……。それに気付いた時はもう遅かったんだ。そして俺は取り扱い説明書に書いてあった、あの注意事項を思いだした。『使い過ぎないこと』。 「あれ……何だろ……」
私はちょうど今家に帰ったところ何だけど、中くらいのダンボールが玄関に置いてあるのよ。ダンボールに何か書いてある。
「良い夢見装置……?」