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Witch World  作者: 南野海風
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61.貴椿千歳、帰宅する




 7時半には帰ってくることができた。

 アパート前まで送ってもらって、学園長と別れる。今度また機会があったら、婆ちゃんの秘密を探りたいものだ。

 高級車を見送り、振り返ると、奴がいた。


「おかえり」


 乱刃である。

 ずっとここで待っていたのか、それとも帰ってきたのを見て部屋から出てきたのかはわからない。

 さすがに学園長が、自分の学校の門限を無視するとも思えなかったし、別れる際に「門限が8時なのでそれまでには帰れるだろう」と言っておいたので、とりあえず待ってはいたのだろう。


「肉を買っておいたぞ」


 夕飯を。

 俺ではなく夕飯を。


 ……まあいいさ。そういう奴だからな。

 乱刃は初給料で、掴んだビッグマネーで、まず肉を買ったようだ。


「ただいま。ステーキ丼でいいのか? すぐ作ってやるから、管理人さん呼んでこい」

「よし! 早くな!」


 学園長との会話で疑問がたくさん生じたものの、とりあえず、色々なことが丸く収まって無事に帰宅できたことを喜ぶべきだろう。

 主に今夜の俺の安全とかな。




 乱刃に飯を食わせて、その後にバイト代の話をした。管理人さん立会で。

 三人掛かりとはいえ、一日で相当な稼ぎになったらしい。歩合制なので、あれだけがんばればそれだけ実入りが良いのは最初からわかっていたが。

 元々バイトなので稼げるのは結構だが、それでも額が多すぎた。


「だから織春と相談して、三人で分けることにした。これは千歳の分だ」


 当初、乱刃と織春の二人で折半することになっていたが、ビッグマネーすぎたので俺にも分け前を回すことにしたそうだ。

 別によかったんだが……

 と思ったが、二人の気持ちが一緒で、二人でそう決めたのなら、ありがたく受け取っておこう。


 それから乱刃の食費を、今月を含めて半年分を先に貰う。

 これで目的は完了である。

 乱刃の食事の保証ができた。もう後ろめたい気持ちで食事しに来る必要はなくなったわけだ。半年は。


 三分割して、半年分の食費を払い、それでもまだ乱刃の手にはまとまった金額が残っているのだから、相当稼いだことになる。

 魔女の力を必要とするバイトは実入りがいいとは聞いていたが、これほどとはな……都会はすごいな。


 極貧だった乱刃も、まとまった金ができたので、これで生活必需品を整えてもらう。

 これは男の俺じゃ不備があるだろうから、委員長とか橘に頼めばいいだろう。あいつらも心配していたからな。


 あとは……なんかあるか?


「どうだ管理人さん。私は金持ちだぞ」


 金を握った途端、急に態度がでかくなった乱刃を、まるでお年玉をたくさん貰った子供を見守るかのように微笑んで「そうね」とうなずく管理人さん。管理人さんは大人だな。俺は「金を見せびらかすんじゃありません」と説教したくなったが。

 そんな管理人さんを見て、ふと思った。


「管理人さん、蒼桜花学園の学園長だか理事長って、誰だか知ってますか?」

「蒼桜花の代表のこと?」

「はい」


 問うと、管理人さんの口から、よーく知っている名前が出た。


「前に聞いただけだから、今は違うかもしれないけれど……確か桜好子おうこうしあおいさん……だったかしら」


 ……ああ、そうですか。本当なのか。

 十数年ほど婆ちゃんの孫やってきたが、学校を運営してるなんて、知らなかったよ。


「蒼桜花がどうかしたのか?」

「どうっていうか……」


 なんだろう、この気持ち。

 疑問でいっぱいというか、疑惑で満ちたというか……秘密の多い婆ちゃんの秘密が一つ明らかになったのに、何一つすっきりしない。

 なんで婆ちゃんは自分の学校じゃなくて、自分の天敵である九王院に俺を入れたんだろう?

 そして学園長が受け入れた気持ちも、いまいちよくわからないし。


 ……今夜、電話してみるかな。

 婆ちゃんのことだから絶対答えないと思うが……


「そういや、おまえはどうなったんだ?」


 蒼桜花と言えば、あのトカゲ襲撃事件を思い出す。

 雨傘才歌と、ヘンタイと……あと影の薄い人の三人組。


 あの一件は、乱刃の兄弟子という人が仕向けたことだったということが判明して、乱刃が兄弟子に挨拶に行ったことで収束した。

 プライベートなことだから多くは聞かず、「挨拶したか?」と聞いただけで済ませたのだが。


 それからどうなったのかは、聞いていない。


「麒麟には会った。……これ以上は聞くな」


 その答えは、俺が「挨拶したか?」と聞いた時と同じだった。


 何かはあったのだろう。

 何があったのかは知らないが、あの乱刃が口ごもるようなことが、確かにあったのだろう。


「ほら見ろ管理人さん、一万円札だぞ。見たことあるか? 私は初めて持った。これ一枚でケーキが三つは食べられるぞ」

「お金を見せびらかすんじゃありません」


 とりあえずこいつには財布が必要だ。委員長と橘に言っておこう。





 こうして、長かった二日間が終わった。

 主に俺の身の危険があったりしたものの、乱刃に労働意欲を植え付けることには成功した……だろう。たぶん。


 あとは、俺は蛇ノ目へのお礼を考えて……


 それと、やっぱり婆ちゃんのことか。


 ……電話してみるか。まともに答えるとも思えないけど。










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