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Witch World  作者: 南野海風
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113.貴椿千歳、はじめての検定試験に挑む 1






 土曜日の朝8時半、学校に集合。

 そして総合騎士道部のメンバーで、試験会場へ向かうことになる。

 試験結果の都合によっては、明日も試験である。


 ――という説明をすると、腹ペコ姉妹は「わかった」と頷いた。


「いつも通りでいいわけだな」


 そうだな。

 試験だからって朝食の時間が動くわけじゃないので、そういうことになる。


「でも昼に寮に戻るのはちょっと無理そうだ。一応弁当を作る用意はしてあるが……」

「そうか。その弁当で構わない」


 あ、やっぱいるのか。


「……一応、麒麟先輩の分も作ろうかなーと思ってるんですけど、いります?」

「貰う理由がない」


 と言いつつも、幼稚園児のような一つ上の先輩は、俺の作った朝食を当然という顔で食っている。


 ――「用意されたからには食わない方が失礼だ」と言い放って、この通りなわけだが。


 昨日、俺の特訓の後に寝落ちした麒麟――乱刃の兄弟子にあたる北霧麒麟は、乱刃の部屋で一晩を明かし、翌朝弟弟子と一緒に俺の部屋を訪れている。

 飯を食いに。

 麒麟先輩がいることがわかっていたから一応先輩の分も用意してみたんだが、躊躇なく貪り食っている。


「じゃあ勝手に作りますから、腹が減ってたら食ってくださいよ」

「そこまで言うなら仕方ない。遠慮なく貰おう」


 乱刃も大概面倒だが……麒麟先輩も似たようなものか。

 しっかりしているようであり、どこか抜けているようでもあり……


「何だ。何か言いたいことでもあるという顔だな?」


 うわ怖っ! 睨まれた!

 特訓で連日ボッコボコにされたせいか、麒麟先輩はちょっとトラウマになってるかもしれない。マジで背筋に悪寒が……


 「なんでもないっす」と誤魔化す横で、乱刃が先輩に話を振った。


「麒麟、今日の予定は?」

「修行以外の何がある」

「では帰るのか?」

「ああ、帰る。――この一週間、久しぶりにまともな食事を摂れたしな。これで半年は集中できそうだ」


 いやちゃんと飯は食えよ……まだ成長期だろ。

 今食って身体作っとかないと、歳取ってからガタが出るんだぞ。身体って本当に正直だからな。日頃の不摂生はあとからまとめて祟るんだ。


「戒、解っていると思うが敢えて言う」

「なんだ」

「余り贅沢を覚えると、元の食生活に戻れなくなるぞ。こんな豪華な食事はたまに食べるくらいで丁度いい」

「…………う、うむ……そうだな」


 麒麟先輩、そいつはもう手遅れだと思います。

 だってプリン食ってるし。食後のプリン食ってるし。





「貴椿」


 三人で寮の前まで出てきたところで、麒麟先輩は俺を見上げる。


「騎士検定、気をつけろよ、片時も油断するな」


 …?


「気をつけろって、何が?」

「そのままの意味で捉えればいい。ただの弁当分の世話だ、忘れて構わん。――世話になった。今度は我が馳走してやる」


 静かに目礼し、麒麟先輩は俺が渡した弁当を下げて行ってしまった。

 ……いや、なんつーか。


「すげえな、あの人」


 なんて言っていいのかわからない。いろんな意味で突き抜けてやがる。

 しかも、幼稚園児並の身体であの威厳と強さと眼光か。

 元の姿なんて想像もつかない。


 もしかしたら、俺が考えている以上に、とんでもない人物なのかもしれない。


「麒麟は強い。それは肉体的な意味ではなく、精神的にもだ」


 去りゆく小さな背中を見詰めて、ふっと乱刃は笑う。


「あれを超えねばならないと考えると、気が重い」


 不安げな言葉の割に、乱刃の表情はいつになく穏やかだった。


 まるで自慢の姉に羨望の眼差しを向けているかのように。





 麒麟先輩、乱刃と別れて、俺は九王院学園へ向かう。


「雨降りそうだな……」


 生憎の曇りである。

 今日は不吉な胸騒ぎを与える『虚吼の巨人』の代わりに、雨雲が一面に広がる空がテンションを下げてくれる。


 真夏日の曇り空、湿度も高いので、気温以上に暑く感じられた。

 まとわりつくような外気に蒸されて、早くも汗が浮かぶ。

 おまけに長袖だしな……学校も会場も気温調整されているそうだから、やはり冬服の制服のまま参加することになっている。


 それにしても、天候は大丈夫だろうか。

 騎士検定の会場は、意外にも屋外だとか言っていた気がするんだが。

 今にも降りだしそうだし、雨天決行になるのか?


「おーい貴椿ー」


 お?

 不安げに空を眺めていると、ちょっと違和感のある声が俺を呼ぶ。

 違和感があったのは、男の声だったからだ。比率的に言って、男に声を掛けられるのは珍しいのだ。


「あ、綾辺先輩」


 向こうからたらたら走ってきたのは、総合騎士道部2年生・綾辺影虎先輩である。

 そして先輩は、そのまま俺を素通りした。


「急げ急げ。走らねーと遅刻すんぞ」


 え? マジで?


 ……どうやら、出かけ際に腹ペコどもの弁当を作ったので、想像以上に時間が経っていたようだ。





 綾辺先輩と一緒に朝から突っ走り、なんとか約束の時間ギリギリに学校に到着。

 校門を潜ってすぐの待ち合わせ場所には、顧問の紫先生を筆頭に、すでに全員が揃っているようだった。北乃宮も風間も三動王もすでに来ているし、ここ二週間くらいで知り合ったよく知るメンツだ。


「遅いわよ!」

「わりーわりー。あーあっちー」


 当然というか案の定というか、文句を言ってくる哀川先輩。その言葉を聞き流す綾辺先輩。哀川先輩は今日もわかりやすいなぁ。


「君が遅刻ギリギリなんて珍しいな」


 と、俺は北乃宮に言われた。

 面目ない。時間をこまめに確認しないのは悪い癖かもしれない。


「――揃いましたね。それではルールの確認と班分けを行いますので、全員集まってください」


 こんな暑い日でもピシッとブラックスーツを着こなし髪をアップし一部の隙もない紫先生の号令に、俺たちは注目した。










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