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Witch World  作者: 南野海風
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104.貴椿千歳、生徒会長に会う







 休み時間、蛇ノ目に相談して、生徒会長と会う約束を取り付けることにした。

 教室まで直接行くより、こっちの方がスムーズに事が運ぶだろう。会いに行って会えるとは限らないしな。


「――会長、忙しいから放課後まで時間がないんだって。放課後なら少し会えるみたいだけど」


 「どうする?」と問われ、もちろんOKした。

 クラブにも委員会にも入っていない俺と乱刃は、放課後の融通はそれなりに利くから。





「余人が及ぶからです」


 無事に「放課後、屋上」で会った生徒会長・空御門そらみかど神久夜かぐや先輩に、なぜここで会おうという話になったのか問うと、そういう答えが返ってきた。


 陽の下で見る生徒会長は……やはりそれでも夜空を連想させた。

 グラデーションのかかった長い髪は、毛先に近づくに連れ深い藍色になっていく。


 乱刃じゃないが、綺麗なのは言うまでもなく、とにかく不思議な髪の色だ。

 派手なだけなのはテレビで見たことあるが、ただ染めるだけじゃこれは再現できないと思う。


「ついでに風紀委員長代理も、貴椿君に話があるそうなので」


 そう、ここは風紀委員室プレハブの前である。


「昨日はお疲れさん」


 そしてすでに風紀委員長代理・七重七呼先輩もここにいた。


「会長、昨日の約束を果たしたいのだが」

「約束? ……ああ、髪を触るという話でしたか」


 早速乱刃は自分の要求を口にし、生徒会長は「どうぞ」と感情のこもらない声で許可を出した。


「ただし、触りすぎないようにしてください。そうじゃないと私は変になります」

「へん?」

「その時は責任を取ってもらいますから」


 ……?

 俺もなんだかよくわからないが、少し迷った乱刃は、結局生徒会長の後ろに回り込むと、おずおずとその不思議な髪に触れた。


「お、おお……これはすごいな……和流にも負けない手触り……」


 ……ちょっと羨ましいな。俺もちょっと頼んでみようかな。

 あ、でも、その前に要件を済ませるか。


「会長。その節はお世話になりました」

「その節、とは?」


 予想通りの反応である。

 だろうな、もう忘れててもいい頃だよな。 


「ほら、あの、魔獣狩りのバイトで、揉めた時に。学園長を呼んでくれたじゃないですか」


 学園長参戦のおかげで、俺は今まだ無事なのだ。たぶんきっと。


「あれですか。なら礼は不要ですね。学園の外で起こったトラブルに対処するのは生徒会の役目なので」


 「当然のことをしたまでですから」と。会長はしれっとかっこいいことを言った。

 俺はチラッと、隣にいる七重先輩を見た。


「…? どした?」


 ほっとするなぁ、この人見ると。

 ――会長を見てると、やっぱりなんか不安になるのだ。感情が見えないところも含めて、こうして話しているとそこに実在するのかどうか疑わしくなる。

 なんだろう?

 存在感はあるのに印象が希薄というか……


 まあ、いい。

 漠然とした印象なんて言われても会長だって困るだろうしな。

 話を進めよう。


「蛇ノ目から聞いてると思いますが、昨日祖母と話しました。その辺の報告をしておいた方がいいかと思って」

「そうですか。話の焦点としては、やはり事実確認でしょうね」


 ……そうなるか。

 婆ちゃんがどんなつもりで手紙を出したり婚約者を作ったりしていたのか、動機はこの際気にしなくていい。


 問題は、それが本当なのか否か。

 そして、それを押し付けられた俺の気持ちだ。





 俺は昨日話し合ったことを、簡単に伝えた。


 手紙も婚約も、本当の話であったこと。

 俺が、婚約の話を受け入れるつもりはないこと。


 ほかにも細々あるが、大事なのはこの二点だろう。


 ……ついでに。

 話すかどうか、実はこの時まで悩んでいた。

 恐ろしく個人的なことなので、話す必要はないのかもしれないが、それ(・・)がわかっていないと全ての辻褄が合わない気がして。

 やはり、話すことにした。


「俺が田舎から出てきてこの高校に来たのは、嫁を探すためなんです」


 七重先輩が「ほう!?」と実に心臓に悪いレベルで興味を抱いたようだが、それでも……もうここまで言ったら黙ったって仕方ない。

 何せ、火周もアルルフェル(ねこ)も、乱刃も知っている。

 当然、口止めはしてある。

 乱刃は基本的に約束は守るタイプだし、火周も北乃宮おとうとに関わらないことならどうでもいいってスタンスのまま、本音では常識人だから普通に守ってくれると思う。


 だが、猫の自由具合を見るに、あいつは信用できない。あいつはきっと悪気なく秘密をポロリするタイプだ。


 よそからバレるくらいなら、俺から話しておいた方が、それこそ後々スムーズだろう。


「そうですか。アルルフェルから聞いていましたが、本人から聞かされると信憑性が増しますね」


 おい! あの猫すでにポロリしてやがった! 自由な奴め!


「なんだよ。空御門知ってたの? なんだよ。言えよ」


 七重先輩は、俺が話す前に知っていた会長に少々イラッとしたようだ。


「七重さんの耳に入れたら、貴椿君の迷惑になると考えたのではないですか?」


 だとしたら慧眼と言わざるを得ない判断力だが……でもあの猫がそこまで考えるとも思えないけどなぁ。


「何が迷惑だ。ちょっと強引にデートに誘うだけだよ」

「それがすでにアレなのでは?」

「アレってなんだよ」

「私の口からはとても言えません。察してください」


 まあ、「強引」って付く時点で、多少迷惑ですが。

 このまま放っておくと二人が険悪になりそうなので、話を進めよう!


「俺からは以上なんですが……」


 と、七重先輩を見た。

 この人もさっき、なんか用事があるって言ってたよな?


「あ、もういい?」

「はい」

「じゃあ、私からも話そうかな」





 「これ一応昨日の集会に私が来た理由なんだけど」と前置きして、七重先輩は口を開いた。


「白滝高校から手紙の件で、九王院うちに連絡があったんだよ。昨日、防宗峰ぼうそうみねさん本人が言っていた通り、彼女は騎士。つまりヴァルプルギスの夜に参加する権利がない。まあそれ以前に白滝はかなり遠いから、九王町のことなんて何も知らないと思う。

 で、その流れから貴椿くんも知っての通りって感じになったんだけど」


 ヴァルプルギスの招待状が届いて、出席したと。


「とりあえず貴椿くん本人に確認するしかないじゃない。まずそれを最優先と考えて、だから防宗峰さんも招待した。

 ただの挑発的な文章ならまだしも、何せ『婚約』なんて自分だけの問題じゃ済まない物騒な言葉が入ってるからね。防宗峰さんもそれがあったからイタズラや中傷文として処理しなかったんだって。

 イタズラならいいけど本当だったらお互い色々困りそうだから、まず事実確認をしたい。――それが彼女の要求だったね。大事にしなかった点はすごく好感持てるよね」


 そ、そうか……

 遠くからわざわざ来たのだろう防宗峰先輩には、もう一度頭を下げるべきかもなぁ……

 

「刻道さんの婚約話と、さっきの嫁探しの話を知らなかったから、ちょっと対応がズレたんだけど。

 もし『手紙が本当である』という前提で、そして防宗峰さんが『手紙が本当であると判断した上でどうするか』がわからなかった以上、全てを丸く収める方法として一番強いのがある」


 全てを丸く収める方法として、一番強い……あ、そっか!


「『手紙が本当』なら、俺が騎士の試験で勝てばいいのか」


 そうすれば文面にある通り、婚約話はなくなる。

 手紙の内容は、「俺より優秀だったら婚約を認める」とか、そんなふざけた内容だったしな。


「そう。試験に勝つ必要がある。

 つまりそうするとだね、君の所属が自然と総合騎士道部ってことになるわけ」


 あ……そう、なる、のか?


「それは面白くないんだよ。貴椿くんは風紀が狙ってるわけだからね」


 は、はあ……そうですか……


「だから騎士道部に入部するっつー手遅れ状態になる前に、うちの仮入会の手続きをしてもらおうと思って、あの場に行ったわけだ。おわかり?」

「まあ、話はわかりましたが」


 そこまでするほど俺の所属が気になるのかよ。


「じゃあ仮入会しますね」


 ここまで強く求められているなら、その期待に答えたっていいだろう。


「本当!? じゃあ強引にデートに誘ってもいい!?」

「強引に誘わないでください」

「私が嫁じゃ不服か!?」


 そんな質問答えられねーよ。

 急に興奮し出した七重先輩を止めてもらおうと、生徒会長を見ると…………えっ!?





 目を疑った。

 いや、……疑うまでもないのは、わかりきっているが……


「髪、赤っ!」


 いや……赤というより、ピンクか……?


 毛先に向かうに従って藍色になっていく不思議な髪だったのに、今は鮮やかに色付き、紫からピンクへと変色していた。

 カメレオンの擬態を思わせるような、不思議に不思議を重ね合わせたような不思議現象が起こっていた。

 それでも綺麗だとは思うが……でも印象はまるっきり変わるなぁ。


「どうだ千歳、面白いぞ。触れば触るほど髪の色が変わるのだ」

「おもしろっ……え、面白がってていいのかそれ!?」


 乱刃が調子に乗って髪を触りまくっているのが原因のようだ。


「もういいでしょう」


 と、会長は乱刃の無遠慮な手を払った。


「これ以上は変な気分になります、もうやめてください。それとも――」


 会長の顔は、少し赤くなっていた。

 しかしやはり感情のない瞳が、ひたと乱刃を見据える。


「それとも、髪が私の性感帯だと知っていての行為ですか? だとしたら本当に責任を取らせますよ」


 せ、せいかんたい!?


「…………」

「…………」

「…………すみませんでした」


 あまりにも衝撃的な言葉だったのか、乱刃は敬語で頭を下げた。

 本当なのかどうか、怪しいとは思うが、でも確かめる勇気は俺にはない。

 それに、その疑惑がある以上、軽々しく「髪触らせてください」とは、絶対言えない。


 そして、思い出した。

 昨日の夜、乱刃が「髪触らせろ」と言った会長の隣で、なんだか怒っているかのような視線を向けていた日々野先輩を。

 

 ……いや、この件について考えるのは、もうやめよう。


「おまえは性欲の化物か。人前の炎天下で欲情すんなよ」

「人聞きの悪い。欲情させられたのです。知っていて止めなかった貴方にも責任はあるのでは? 責任を取るのは貴方でもいいのですよ?」

「もうやめろよ……ファーストキスやっただろ……もうそれで勘弁してくれよ……」


 …………


 この件について考えることは、もうないから!





 二人と別れた後、乱刃はぽつりと呟いた。


「髪に執着するのは、程々が一番いいのだろうな」


 俺は黙って頷いた。


 世の中、いろんな人がいる。

 何が、その、性的なアレを覚える器官なのかなんて、わからないのだから。










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