お姫様の護衛2
ハカネside
「このメス豚っ!!コウ様たちに近づかないでよ!!」
「調子のんじゃないわよ!」
「遊びだってこといい加減に気づきなさいよ!」
女子トイレ。
いやぁ、結構女子トイレって声が響くのね。びっくりしちゃったわよ。
女子トイレ前のところで私は呆れるように笑っていた。
私は女子同士で
「ねぇねぇ、トイレ行こう?」
「うん、一緒に行こう」
という会話はない。
私にとってそれは無意味に近い行為だと思っている。
だってそうでしょ?
トイレで用をすますのは実際一人なのに、なんで人を付き添う必要があるのよ。ベッタベタして。やだ、ちょっと悪寒が走ったわ。やばいかもしれない。
いつもなら、私は友達と一緒になんかトイレにはいかない。
だがしかし。
私は本当に珍しい国宝級くらいで、私は女子同士で来ている。
これはレアなものよ。
…まあ、これは仕方ないことだけど。
私はナギサの護衛をしている。
つまりは、行動はいつも共にすることになる。今まで仲良くしていた子たちには悪いが、この一週間は彼女の付添係だ。だから、移動教室もいっしょ、お昼もいっしょ、…トイレもいっしょ、ということだ。
ちなみに、一週間住むところもいっしょ、だ。
はぁ、とため息をついていると。
集団パンダが女子トイレにがやがやと入ってきたではないか。あらびっくり。もともと中に入っていた私も、トイレ内から出されちゃってありゃ大変。
これでは、一緒に行動している意味ないじゃないか。
そして、冒頭に至る。
キンキンする声。
なんて高い声を出すんだろう。まぁ、私も高い声と言ったら高い方だが。
「コウ様たちは私たちのものよっ!勝手に転校してきたあんたになんでコウ様たちがかまうのよっ!」
あ、それ。
私も最初思ってた。
・・・けどさ。
あの、斉藤のベタ惚れみてたら納得しちゃうわよね。
なんて、軽く心の中で呟いていると不意に後ろから気配がした。
女子トイレ前の廊下。
私以外に誰かいる。
確かに、周りに何人かいる。
男子が何事だと不思議そうに女子トイレ前にいる。
けれど、その中で。
その野次馬の中でひときわ目立つ気配。
これが、彼らか。
「おいおい、篠原。守るじゃねぇのかよ」
「あら、ごめんなさい。ぎりぎりまで待つのが私のなのよ」
―――――斉藤、立花、山田の三人か。
周りの人たちがざわざわと騒ぐ。
――――――「 !」
ナギサの声が聞こえた気がする。
…確かにね。
彼は、そんな小さなものじゃないだろう。
ふっと笑みがこぼれた。
3人をにらむように見ていると女子トイレ内から「きゃぁっ」と複数の悲鳴がした。
バッと振り向き、私は女子トイレ内に入っていく。
大勢のパンダたちの間をとおっていく。
トイレの中はパンダでいっぱい。パンダでも野次馬になれるのかい。
なんて、つぶやくこともできなかった。
ヒュッと音がする。
「何イキガってのよっ!!」
リーダーの女が右手を上げる。
平手打ちをするつもりかと、くっと片眉を上げた。ナギサの瞳が危険を察知したように開かれていく。
――――あなたは、その恐怖をこれからきっと、何回も経験することになるのよ?
ふと思ったこと。それは、彼女に伝わっただろうか。いや、伝わらないだろう。人の思いは、口に出さないと伝わらないもの。だからといって、口に出そうなんて思わない。
理由は?
そんなのないよ。
パンダの前を横切っていく。
ナギサが覚悟を決めたようにギュッと目をつぶった。
―――パシンッ。
平手打ちがきれいに頬を叩いた。
乾いたその音は結構大きかったから。たぶん、トイレの外にも聞こえたんじゃないかな。
パンダのギャラリーが息をのむ。私は口の片端をにやりと上げた。
パンダさんたち、
ねぇねぇ、
知ってる?
「はいはい、ダメじゃないの。手を上げたら。知ってた?トイレの外にはあのイケメンたちがいるのよ?もし、たたかれて頬を赤く腫らした状態でこのお姫様が出てみなさいよ。あなたたち、次の日には命がないんじゃない?金輪際、こういうことしない方がいいよ。あなたたち、学校にいられなくなるかもよ?」
笑って、呆れるように。私はパンダたちにいった。
一気に震え上がる、パンダさんたち。だって、殺気を少し出したもの。だって、あなたたちが私の頬を叩いたんだもの。
私は、ナギサの前に立ち、リーダーパンダの平手打ちをナギサの代わりに受けたのだ。
…まぁ、こんなの痛くもかゆくもないけど。
でも、赤くはなってると思う。
「ほら、はやくいったいった。そろそろ授業も始まるわよ」
そういうと、彼女たちはダダダッと走ってトイレから出て行ってしまった。お決まりの「お、覚えときなさいよっ!」とかいって。いや、古くないか?そのセリフは古いぞ…。
ははっと笑ったら、後ろにいたナギサの腕がぎゅぅっと私のお腹を締め上げた。
「ぐはぅっ」
や、やばい。何この子。なんなの?どんだけすごい力なのよ!
ぎゅうっと締める彼女の腕力。何者なのよ…っ。あ、お姫様か。
ていうか、変な奇声あげちゃったじゃない。絶対あの声外に漏れてたわ。
「ばかっ、なんでかばうのよ!…痛かった、よね」
うるうると大きな瞳を揺らすお姫様。まったく、泣き虫ちゃんだなぁ…。
「馬鹿はそっちでしょうよ。
あのねぇ、知ってる?
――――――――――――――――――ヒーローは必ず、ヒロインを助けに行くの」
だから、たたかれたっていたくないんだよ。