お姫様の護衛
ハカネside
ほらやっぱり。
あなたたちは、このお姫様を守ることはできていない。
私が殺気を出しているのに、お姫様をこの場から出そうとしない。私なら、すぐさまこの屋上から出て行かせる。
彼女を、傷つけることはある意味罪だ。
誰もを魅了させるその美貌と無自覚な天然。本当、王道だ。
だけど、その王道に私も巻き込まれる。
これは意図的ではないけれど、でも、彼女を遠くから見ていても守りたいと思った。
だからかな。
たいして興味もない転校生を女、うん、パンダたちから助けたのは。
彼女の笑顔を守りたい、と男みたいなことを考えてしまった。
まぁ、あの三人組のイケメン女タラシの中の斎藤 コウは私と思ってることは同じだろうけど。だから、いつも彼女の隣にいる。
…言っておくが、私はレズではない。
ただ、女として。
彼女に惹かれたのだと思う。
彼女の危なっかしいドジな性格。
王道、だな。
常々あきれるわ。
「さぁて、自己紹介しない?まぁ、全員名前は知ってるけど?会ってるかどうか確かめたいから言ってくれる?」
にっこりと原田ナギサに対して笑う。
他の男たちには殺気つきのにらみで。…ほら、これぐらいで後ずさりするなんて。
あーあ、馬鹿らしい。
心の中では大爆笑中だけど、表情には絶対出さない。
ポーカーフェイスは得意。
人をだますのも得意。
これは、”あそこ”で習ったこと。
私にとって大切なこと。
これを失ったら私はだめな女になる。
使い物にならない、役立たずになる。
「う、んっ…。私、原田 ナギサ…知って、たよね?」
「まぁ、そりゃ有名だからね、あなたの名前」
「俺は斎藤 コウ。俺達集団の大将みたいなもんだ」
「なにそれ、すっごい自慢してる感じ?ないわー」
「俺は立花 カイト。情報参謀担当です」
「うん、そんな感じしてるわ。腹黒っぽさとか」
「俺は山田 レンだっ。ナギサの幼馴染。お前となんか仲良くする気ねぇっ!」
「あ、馬鹿金髪ね。おっけ、あ、ガキ馬鹿ド金髪がいい?」
いちいち突っ込んであげたけど、帰ってくるのは斎藤の殺気と立花の黒いほほ笑みと
「うっせーっ!!俺はガキじゃねーし馬鹿でもねぇ!!」
山田のガキみたいなバカでかい怒鳴り声だった。
あぁもう、うるさいな。
騒がしいのは昔から嫌いだ。なんでこう、騒がしいんだ。
イライラする。
ほんともう、疲れる。
「はいはい、ド金髪。わかったからおとなしくしててよ、耳が痛いわ」
ひらひらと手をハエを追い払うような仕草でふると顔を真っ赤にしてガルル…と威嚇しだしだ。
貴様はなんだ、犬なのか。
うわ、こんな犬飼いたくないね。
「ね、ねぇ、あなたは、なんて名前?」
「…私?」
恐る恐る聞いてきたナギサの頭をわしゃわしゃとなでる。
この子はとっても頭をなでたくなる衝動を人に与える能力を持っているのかもしれない。いや、絶対持ってる。こんなにもかわいいもの。
「私は筱原 儚音。儚いという漢字に音よ」
「へぇ、全然儚くなさそうなのにな」
挑発するようにド金髪が鼻で笑う。
多少カチンと来たが、この名前をつけた両親のことを思い出すと、なんだか気分が下がる。
なんて言うんだろう、すべての感情がすぅーっとなくっていくような感覚だ。
「は、ハカネちゃん!あの、さ…」
「何?」
言いづらそうにうつむく彼女。
私より10センチくらい下にある彼女の頭。私が165センチだから、彼女は155センチ?ずいぶんと小さいわね。まぁ、それくらいが可愛いんだけど。
「私の、ヒーローになるの?」
「…彼らと試すのよ。あなたを守る役として、私と彼ら、どちらが適任かってこと。試す、わよね?」
後半はナギサから視線を外し、彼らと目を合わせる。一人ひとり、しっかりと目を合わせる。彼らの心や考えてることを、しっかり読みとるように。
「えぇ、いいでしょう」
私の問いに答えたのは、情報参謀の立花。こいつ、敬語で気色悪い。なんだ、眼鏡クール男子ってとこか?
「他の人は?」
「…俺もいい」
「…わぁったよっ!ナギサのことぜってぇ、守れよな?!」
怒鳴る山田を見て、私の口元が弧を描いた。
――――「あたりまえじゃない」
そんなこと、百の承知よ。
守れないなら、私はヒーローじゃない。
でも、絶対守る。ナギサを自分の命と引き換えでも守ってあげるわよ。これは私のプライドでもあり、私のモットーだから。
仲間を守ることは、私の決まり。
「絶対守るわ。傷一つでも作ったら私をこの学校から退学させてもいいし、私を滅多打ちにしてくれてもかまわない。それぐらいの覚悟はあるわ」
ニヤッとニヒルに笑ってみると、大将が口を開いた。
「わかった、お前の覚悟は本物だと信じる。ナギサをこの一週間守ってみろ。傷一つ作ったらそれ相応の罰を与える」
「えぇ、了解よ」
大将の瞳には挑発と安心が混ざっていた。
きっと私の覚悟に少しだけ安堵したのだろう。でも、まだきっと私を疑っている。まぁ、それも当り前だろう。
私は彼らに自分の正体を明かしていないから。
私の気配の消し方。
私の絞める力加減。
これらの材料で当てはまる答えは、「どう考えても一般の女子高生ではない」ということ。
多分、情報参謀の立花に私の情報を調べさせるつもりだろう。
それなら問題ない。
私の情報はすぐに出るだろう。…偽物の情報ならね。
きっと彼が調べた先には私は平凡な女子生徒でしか書いていないだろう。
もし、出ないとあればもっと私を危険な人物としてみるはず。それを避けるために私は自分で嘘の情報を作った。情報を作ったりハッキングしたりするのは簡単だ。まぁ、私より上の人はいるけれど。でも、この情報参謀よりは勝っていることは確信だ。
「ねぇ、私の護衛役ってことになる、の?」
「そうね、そういうことになるわ」
「…じゃぁ、約束して?」
「何を?」
「…危なくなったら、ちゃんと逃げて。私を守るがために命、おとしちゃったら…」
「………」
あぁもう、この子は。
演技には見えないその言葉と行動。
いろんなだますがために演技をしている女を見てきた。
でも、彼女は演技なんかしてない。
そう見たって素だ。
これだから彼女は…。
ふぅ…と息を吐く。
「…馬鹿ね。いいからあなたは自分が逃げることに徹しなさい。この一週間、何が起こるかなんて誰にもわからない。まぁ、平凡に進んでいくとは思ってるけど」
「でもっ・・・」
「いーい?私はあなたを守るためにいるのよ?だから。私は体を張ってでもあなたを助け、守る。傷なんて一つもつけないから」
「…っ、いや、だよ!」
「・・・・・ナギサ」
「…え」
プチンと思考が停止したようにナギサの体がピタリと止まった。大きな瞳をさらに大きくして。
さらりと、彼女の長いミルクティー色の髪が風にゆれる。
「…い、ま…私の名前…」
「呼び捨てにしちゃ、いけなかった?」
「……う、ううんっ!!逆にうれしい!うん、ハカネちゃん大好き!」
ガバァと音がしそうなほどの勢いで私に抱きついてくる彼女。
…っておいっ!待てこら待て!
まず指摘しよう。
1、いい加減に私から離れておくれ。
2、いい加減に私に対して睨まないで。
3、いい加減に私に殺気を向けるな。
そりゃ、大好きといわれたことは嬉しい。
けれど、それを嫉妬する大将がいることを忘れないでほしかった。いや、ものすごく。
殺気を出し、思い切り睨みつけてくる大将。
やめてくれ・・・。いや、まじで。
「ハカネちゃん、友達、になってくれるかな?」
恐る恐るというか、頬を赤らめて聞いてくる彼女。これはもう殺人的なものだ。私の顔の位置からすると私の瞳には彼女が上目遣いで私の瞳をとらえていることが分かる。…つまりはもう殺人的フェイスである。
もう何この子。絶対守らなくちゃいけないじゃない。でも。
でも、いいかな。
彼女を守ることによって、高校生という思い出が作れるかもしれない。
何もしないで、平凡と過ごす毎日にすこしだけ刺激がほしいなんて思っている自分がいたこと。
それぐらい知ってる。
これが一番いいってことは思ってはいた。けれど、やっぱり刺激がほしくて。
”あそこ”から離れてから何かすることを拒絶した。
やっぱり、好きだから。
”あそこ”という場所が私にとって大切だから。その思い出を、消さないように。そっとしてたのに。
ほらね、やっぱり私は刺激を求めてしまう。スリルを、アクションを。
だから、弱いのかな。
でも少しくらい、
求めたっていいでしょう?
―――――友達になって、ハカネ
チリ…と脳裏に焼きついたあの子の顔と声。
雰囲気が似ているあのことナギサ。
無邪気で無自覚で天然で、それでいて美少女。2人の顔は違うけれど、やっぱり雰囲気は似ていて。いざという時になると、芯の強い子に代わっていて。
だからこそ、危ないかもしれない。
私の正体を、明かしてしまいそうで。
「…一週間の付き合いよ。悪いけど、一週間後に答えを出すわ。そうやすやすと応えられそうにないし、ね」
にっこりと笑ってそう返すと、少しだけ表情を曇らせたナギサ。この表情があまり好きじゃない。まぁ、そうさせているのは紛れもなくこの私だけど。
「…わかった。でも、一週間、一緒でしょ?あ、一緒にも住むの?」
一緒に、住む…か。
まぁ、守るならそうしたほうがいいかもしれない。
「そうね、そうしたいけど…」
「やった!ねぇ、コウ君!一緒に住むって!」
「…そうか。わかった」
「…え、何。あんたたち一緒に住んでんの?」
「あぁ、俺達三人はナギサが来る前から一緒に住んでいたよ」
サラッと軽く言う大将さん。おいおい、どんだけ仲いいのよこの三人。まぁ、学校でも常に一緒みたいだし。男はよく男同士でつるむってよく聞くし。
「あ、そ。じゃぁ、私一人入っても問題ない感じ?」
三人から四人になっても大丈夫な家だ。私一人一週間という期間で入っても大丈夫だろう。
「あぁ、大丈夫だ。寝るところはナギサと一緒でどうだ」
「あら、好都合よ。お願いしたいところだったもの。私は、やるといったら本格的にやる女だからね」
挑発的にほほ笑むときらりと情報参謀の眼鏡が光った。それはもう、妖しく。
「そうですか…なら、絶対に傷一つ付けないでくださいね。かすり傷でも何でも」
「わかってるわ、そんなこと。負けない、から」
バチバチと火花が散るようなにらみ合い。こいつとは、犬猿の仲になりそうだな。まぁ、それもまぁ、高校生の時の思い出話になるんだろうな。
なんて、私は軽く考えていた。
はい、本部に入っていきますぜぇぇ!?
頑張ります!