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先ほどまで笑っていた彼女の顔が一瞬にして変わる。

まぁ、さっき笑っていたとはいえ、目が全く笑っていなかった。だから、すぐに表情を変えられたのかもしれない。

そう冷静に考えている自分に少し驚いた。

未だに呼吸は整っていない、けれど、頭は正常に動いてくれた。


「ハァ…とりあえずさー、何で扉壊すわけ?扉直してくれんの?いちおう、鍵かけてたでしょー?鍵かけてんだからさ、はいってくるなってことわかんない?」

あきれるように、めんどくさそうに、彼女は俺達に向かって上からいった。

立ち位置は彼女が上の給水タンクの近くにいて、その下に俺達は彼女を見上げている感じだ。


次の瞬間、彼女は音もなく俺達の目の前に降り立った。


給水タンクのあるところから俺達の立っているとこまで高さは約2メートル以上。

ひらりと舞うように降り立った彼女は一般人じゃない。運動神経は並の程度ではないだろう。ぐっと歯を食いしばり、彼女を見据える。

彼女がこの屋上の鍵を盗んだのだろうか。

確かに、この女ならできそうな気がする。会って数分もないが、この女は簡単に気配を消せることができる。喧嘩慣れしている俺達は人の気配なんて簡単にわかり、その人がどこにいるかなんて手に取るようにわかってしまう。

――――なのに。

こいつは完璧に気配を消し、俺の首に糸を巻きつけ締め上げたのだ。女とは思えない力で。

これを簡単にできるやつは、相当な訓練やら修行やらが必要と考えられる。


「…てめぇ、なにもんだ!」


威嚇するようにレンが食いつく。ガルル…とでもいいそうだ。

それを冷たい目でみると冷たい、冷めた目のまま、


「…ただの人間よ?性別は女。見てお分かりでしょ?」


口元だけ笑みをこぼし、当然の当たり前の馬鹿でもわかる答えをくれた。その言葉にレンがチッと舌打ちを盛大にかましたのは言うまでもない。


「ただものじゃねーだろ、その気配の消し方、俺が意識を失わないように締め上げる力加減…。普通の一般の女子高生はまずそんなことしねーし…」

「なんだっていいでしょ?あんたたちの言う”普通の一般の女子高生”っていうのは教室とかで騒いでるパンダたちのこと?あんたたちのことを大好きでしかたないって顔してる。…あぁ、顔はメイクでかわいそうなことにパンダになってるけど」


この女は、どうやら普通の一般の女子高生ではないらしいな。普通の一般の女子高生のこと、つまりパンダたちのことを相当毛嫌いしている…。

まぁ、その気持ちは分からなくもない。毎朝教室からキーキー声でお出迎え。ナギサには罵声ばかり。陰口を馬鹿みたいに一日中言う奴ら。

そういうの、気にくわない。


「あ、勘違いしないでね。悪いけど、私が毛嫌いしているのはその”普通の一般の女子高生”じゃなくて、他でもない、

―――――――――あんた達だからね?」


にっこり笑う彼女の瞳は真っ黒で、腹黒っぽさを出していた。

一瞬にしてその場が凍りついていく。

彼女から放たれているオーラ。


―――――殺気だった。


まだ軽い方だが、俺の後ろにいるナギサが震えあがった。

…だめだ、これ以上彼女をここにいさせるわけには…っ。


そう思った瞬間だった。


「原田 ナギサ


女の唇が動いたと同時に透き通った優しげな声がナギサの震えを止めた。


「…こいつらといて、楽しい?」


にっこりと、愛想良く。

でも、彼女はナギサを試すように。

腕を組み、彼女を見据えた。


「…た、楽しい、です・・・」


冷や汗をたらしているだろうナギサの声はフルフルと揺れていた。


「…そう。じゃぁ、忠告しておくから。

一つ、こいつらといることは危険と隣り合わせ。

二つ、危ない目に合っても、必ずしも助けてくれるとは限らない」

「え、え、え?な、何で…」


あわてるナギサに俺達は何も言えない。

言いたいという思いがあった。

何か言わないと、気が済まないのに。


これほどまで俺達の不安をぶつけてくる奴はいなかった。


だから、何か言いたくても何も言えなかった。


「…わからないわけ?こいつらは、今までたくさん遊んできたやつらよ?今でも遊んでいるかもしれない。

それでもし、あなたがこいつらの敵に誘拐された時、彼らは遊んでいてあなたが誘拐されたことに気づかなかったとしたら?あんたはその誘拐犯にいろーんなことされちゃうわ。それを覚悟しているのかしら?」

挑発するように、ナギサにいう。

――――やめろ。


――――やめてくれ。


これでもし、ナギサが。


俺達の目の前からいなくなったら?


そしたら、俺の、俺達の癒しは。


俺達の守るべきものは。


俺の…恋は。


…やめてほしい。


ほんと、もう。


「そ、んな・・・ことして…ない…」


ボロボロとこぼれるナギサの言葉。

ほら、迷っている。

ほら、泣きそうに。


「その証拠は?今までこいつらが遊んできたことは証明済みだけど?今は?ありえるでしょう?彼らがいいのは顔だけ。ほかは単なる女遊びを頻繁に行っているあほ面。不細工だわ、本当に」


冷めた目でナギサから俺らへと視線を移す女。


―――――「ねぇ、試してみる?私とこの男たち、どっちがヒロインの原田ナギサを守り、ヒーローになれるか」


瞬間、俺の目が見開く。


――ヒーロー…?


ヒーロー、ヒロインを守る、正義。

どちらがヒーローに適任かって?

それはもちろん。


「俺らがヒーローだよ」

「あら、そう。試そうともしないの。私の方が原田ナギサを守れると思うけど?」

「あぁ?そんなこと…」

「ないと言える?あなたたち、知ってた?原田ナギサが今まで女子たちに何されてたか」


女の言葉に、びくっと大きく体を震わせたナギサを横目で見た。

レンがナギサの肩を抑え、「だいじょうぶか」と聞いた。

フルフルと首を振るナギサを見て、俺は確信した。


何か、あったんだ。


「何も知らないあんたたちに教えてあげる。原田ナギサが転校してきてから女子のいじめは始まったわ。そのたびに私は助けたのよ?何も知らないあんたたちに原田ナギサは秘密にしていたようだけど、もう我慢が出来ない。助けもしないで”俺らがヒーローだ”?ふざけないでよ」


口火をきった女は額に青筋を浮かべていた。

彼女の”ふざけないでよ”はひどく冷たく、低い声だった。

一瞬、後ずさりをしそうになってしまうほど。

なんで、こんな女に。


「彼女、何回も水とかかけられそうになってたけど、全部助けたの。女としてそういうのみてるの嫌なのよね」

「…なん、で…」

「あなたも私を知っていたはずよ。毎回あなたを助けた時、必ずあなたと目が合うもの」

「…っ」


知っていた、のか、この女を。

どうして。


どうして、ナギサは俺達に。


どうして、この女は助ける。


あぁもう、どうしてこんなに。





――――いつも俺はだめなんだろう?







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