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ガチャガチャと音を立てながらポケットに入っていた鍵で屋上の扉を開ける。屋上の扉を開けるこの鍵は、今も先生たちは私が持っているなど知る由もないだろう。
2年前。私がこの学校に入学して2年がたったころだ。去年も一年生を経験している私はさぼりの常習犯だった。まぁ、入学した途端授業に遅れてサボってを繰り返していたら一年生を繰り返すのは当たり前だと思う。世間はこのことを留年というらしいな。
私は授業をさぼっただけじゃなく、さっきの先生も言っていた通りテストをしないのだ。最後にテストをしたのはいつだっただろうか。確か、2年前の学年末テストだった気がするけど。そのテストで、私は見事に9教科100点満点を取ったのだ。合計、900点。900点満点の私をテスト順位1位にするのは簡単で。周りからの痛々しい視線は苦しいといえば苦しかった。
っと、少し話がそれてしまった。
そうやって一年生の時もサボっていた私がある日、いいことを思いついたのだ。
小さいころから青く晴れ渡っている空を見ているのが大好きだった私が思いついたのが、毎日屋上にいること。
屋上はこの学校の中で一番空に近い唯一の場所。
それを知っていた私は前々から計画していたことを実際にやってみた。
それは。
鍵を盗むこと。
いや、立派な犯罪ですけどね。もうさぼり常習犯的な私はもう犯罪とか知りませんなので、普通にやっちゃいました。それはもう簡単なことだった。放課後、部活で先生がほとんどいないなか、私は先生に用があるといって職員室にいった。担任はちょうどいいところに座っていて、屋上の鍵をかけてあるところの近くにあった。ラッキーとおもって先生と軽く話をして(もちろん、平静を装って)後ろ手で鍵を取る。もちろん、ちゃんと確認した。屋上の鍵だってこと。先生にばれないようにそっと制服のポケットに鍵を入れる。そして、話を終えるとさっさと職員室を出て行った。
まぁ、こんな感じで屋上の鍵を取ったわけで。
その作戦を実行したのは1年前。つまり、一年生を再び繰り返した時である。
もう屋上でサボってから一年がたっている。
じつは、この一年間。
結構ひやひやしていた。
屋上の鍵がなくなったことがわかったのは、私が鍵を盗んで二週間経った日のことだった。
いや、遅くね?もう少し早く気付け。
とそうやって文句言っていたが、次の日にはすぐに荷物検査が始まった。もちろん、いつものように屋上の鍵を制服のポケットに入れていた私はものすごくあせった。
焦りまくった。
そこで、私はいったん屋上の扉の一歩手前の踊り場のようなところに隠したのだ。そこには椅子や机が5個ぐらいきれいに整理されて置いてあった。
ここなら隠せるかもしれないとわたしは考え、すぐにそこに隠して何気ない顔して荷物検査を受けた。
…まぁ、あたりまえだけど、そのひの荷物検査の時。うん、ものすごくあたりまえだけど屋上の鍵は出てくることはなかった。
それから何回か荷物検査はあったが、3か月もすればなくなってしまった。
だが、裏を返せば3か月も荷物検査をしたのだ。まぁ、そのたびに隠し続けたけれど。
どうしてそこまで教師たちが屋上の鍵を探し続けるのかは、先生のHRの時の言葉でよくわかった。
―――――『もし、屋上の鍵を持っている奴がいたら素直に持ってきなさい。…先生たちは心配なんだ。まぁ、お前らならしないとは思うけれどもし、屋上から飛び降り自殺なんてことしたら大変なことになるんだ。だから、いま、俺達は血眼になって探している』
…結局は、自分たちの、学校の評価。
まぁ、わかる気はする。評価が悪いよりはいい方がいいはずだけど。
それに、あの担任は自分の評価より結構熱血タイプだったからな。
まぁ、そんなこんなでこの学校中を騒がした事件は今も迷宮入りのまま。当たり前だ。まだ私は屋上の鍵を持っているもの。飽きたら、そっと返しておくけどね。
ガチャリと鍵が開く音がして扉を開けてみる。
ふわっとした春の香りを連れてくる春の風で私の長い茶髪がなびいていく。
春、か。
春は結構好き。
だけど。
少し、胸が苦しいかな。
チクと痛くなった私の胸。それをぎゅっとシャツの上から握り、屋上に鍵をかける。もう、ここ、屋上は私しかいない。私だけの、私専用の居場所だ。フェンスに背を向け寄りかかり、空を見上げれば広く青々としたきれいな空。
ふっと漏れてくる笑み。
でも、少しまぶしいかな。
光は、嫌いなのかもしれない。いや、苦手、かな。
ほら、”あの子”がまた頭の中に浮かんでくる。
笑顔で、優しく。
まぶしいな。
まだ、残っている胸の傷。
落ち込んでいたあの日々がまるで嘘のように。
私は目を閉じてごろんと床に寝転がる。
見えるのは真っ暗な闇。
闇に飲み込まれるように、私は夢へと旅立った。