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ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…

ダダダンッダンッダダダダンッダダンッ


2人の息遣いと不規則な2人の足音。

彼女の足がもつれそうになっても、手を力いっぱい引いて私が彼女の体制を整える。そのたびに彼女は「ありが、とう」と苦しそうにお礼を言う。

私はそれを無視しているわけではないが、応えることが無理、で。

彼女の手を引き、自分の足も動かし、自分にある全体力を使ってこの逃亡劇に参加していて。

「そんなこと言っている暇があれば足を動かせ」なんて心の中で思ったって言葉が出ないくらいに、限界を超していた。

限界なんて、もうとっくに超えていて。

足が鉛のように重くて。


「あ、そこ…っ」


見えたのは彼らの、私が今日で去る家。

早く、あそこに逃げ込まなくては…。


とりあえず、彼女だけでも逃がさないといけない。最悪、あたしが捕まっても彼らには迷惑かけないだろうし、彼女はお姫さま。

それに私は彼女の護衛役。彼女には傷一つ付けないという約束。


意識が朦朧としていて楽になろうとしている。

だめだ、と一生懸命自分に活を入れ、あと数十メートルあるあの家に向かう。


あんまり聞こえない世界の音を耳が、後ろの方で数十名のものと思われる足音を拾った。きっと、たくさんのあの敵対していた高校生が私たちを追いかけてきてるんだ。

怖い、怖いけど。

足が、震えるけど。


でも今は。今だけは。


このお姫様を返すために…っ。


たくさんの汗が頬を伝って落ちる。もう、汗でびっしょりだ。

この季節はじめじめしていて。

今日なんか日差しが痛いくらい暑い日なのに。

私たちはなんで走ってるんだろうと、馬鹿らしいことを頭の隅で考えてた。


体力が限界を超していて足が遅くなってきている。

きっと、このままじゃ追いつかれる。


でも、あともうすぐだから。

あともうすぐなんだよ。


だからお願い、お願いだから。


私の足よ、持ってっ…!






――――「きゃぁぁっ!」





ナギサの手を引いてた右手が思い切り引かれる。グンッと後ろにのけぞって頭が揺れるように視界がゆがんだ。

やばい、と思った頭はなんだか変に冷静で。


「ナギサッ!?」


振り返ってナギサを確認する。すると、ナギサはハゲ男につかまっていて、細い首元にはナイフが向けられていた。

ハァッハァッと短く呼吸をするナギサもきっと体力の限界をとっくに越していたのだろう。


「クソッ!」


「おいおい、お譲ちゃん、荒々しいのは女らしくね―ぜ?」


姫が手に渡ったためかずいぶんと余裕にしているハゲ。

「うる、さい…っその姫に、絶対…手、出す、なよ…ハァッ、ハァッ、クソッ」


汗がダラダラと頬を伝っていく。ぽたぽたとコンクリートの上についていく。そのたび、シミを残していく。

「へぇ、ずいぶんとこの姫を大切にしてんだ?」

「あったりまえ、でしょ…!?」


彼女は、彼女はねぇ。


「みんなを笑顔にする、大切なお姫様なのよっ!」


私はそういって全神経を拳に預け、思い切りハゲの頬を殴った。その衝撃でナギサは解放される。そして、すぐにナギサを自分の腕の中に収め、また思い切り地面を…………―――――――。





私は、その地面をけることはなく、そのまま私たちはコンクリートの上に倒れた。

体が受けた衝撃はとても痛くて。

とても重くて。

そりゃそうか。


ナギサの下敷きになるように倒れたもの。

仕方ないでしょ?

傷一つ付けないって決めたし。

倒れるってわかっちゃってたし。


あぁもう、なんで頭だけ冷静なのよ。

本来、焦るところでしょう?


聞こえてるでしょう?


「おい、こいつら倒れたぜ?」

「このまま運んじまえ」

「おーい、車用意しろ!」

「あ、もう用意してる」


ほら、立ってよ、私の足。

もう、ちゃんと立ってよ。


手に力を込める。

あぁもう、さっき全神経使っちゃったからかな。


せめて。

せめて、彼らにメッセージを残せないかな。


震える手でケータイを取り出す。

まだ、意識があるうちに。


「誘拐、ナギサだけ助けて 前敵対してた高校、はやく、じか」


時間がない、そう打とうとしても、もう力がなくて、そのまま。


そのまま、彼らの誰かにメールを送った。

電話なんてできるほど声は出ない。

だから、まだ手に残っている力で。


お願いだから…これだけの情報で…悟ってほしい…。


ナギサだけでも…助けて…あげ…



「ナギサ…」


上を向けば、ナギサがぐったりとして私に覆いかぶさっていた。




あああああ、拉致られる…っ!

逃げてーーっ!

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