お姫様とナイトとヒーロー女
新連載、です!
ナギサside
「ねぇ、ヒーローってさこの世にいるのかなぁ」
ふわふわとしたミルクティー色の少女の髪の毛がゆさゆさと揺れる。
町の中にある子供向けの公園のベンチで少年と少女が空を見上げていた。
空は灰色。
この季節なら、雪が降るかもしれない、と少年は頭の片隅で思っていた。
「ヒーロー?そんなのいるわけないよ。でも、いたらどうするの?」
幼い二人の間に、冷たい空気が交わってくる。
少年の問いに少女はまた髪をゆさゆさと揺らした。にっこり笑うその笑顔が少年にはとてもかわいらしく感じられた。
「ヒーローさんがいたら、私のこと助けてほしいな。どんなときでも私がピンチなら助けに来てほしい」
純粋でしんの強い彼女の言葉に少年が片眉をぴんと動かしていた。
「何か、悩み事があるの?」
「…ないよ、でも」
言葉を濁す少女に、少年は押し黙ってしまう。
幼い二人が背負うのに重すぎる荷物。
「そっか。でも、悲しいことがあったらいつでも言って。頼って?」
悲しそうに笑う少年を少女は瞳に涙をためる。
「――――いかないで」
そうやってつぶやいた。
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目を覚ませば見慣れた天井。窓から聞こえてくるチュンチュンという鳥の声になんとなく朝かなと思う。
ぼやける視界に背中は汗でびっしょりだった。
あぁ、もう。
どうしてこの夢を見てしまうの。
何度この夢を見て何度汗をかいて、何度。
涙で顔を濡らしただろう。
あの日、もう少し彼と一緒にいたかったのに。
離れてしまった。
私たちの間にはくっきりと境界線が引かれていて、手を長く長く伸ばしてみようとも届くはずがないんだ。なのに。私の中には彼との数少ない思い出が、この夢によって思い出されて。
一生懸命手を伸ばすのだ。
私は天井に向かって手を伸ばす。
ひとりだけのこの部屋で、私の頬にまた一筋の涙が伝っていく。
もう一度、彼と手をつなぎたい。
幼いあの頃に戻って。
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ハカネside
「…ほれ、テストだ。お前だけだ、テストやってねーのは」
パコッと軽い音を立てて、出席簿で私の頭をたたく鬼教師。
うん、これはあれだね。
体罰だよね。
今世間で騒いでるからこれに便乗して訴えてやればこれは勝てるかもしれない。
「おい、聞いてんのか篠原。いい加減にしろよ?この前の中間もやってねーんだぞ。てか、お前、めちゃくちゃ頭いいだろうが。なのになぜ成績をとらない。…あぁ、そうだった。お前は極度の」
「めんどくさがりですから、ね」
にっこり笑ってそう返すとぎろりと殺気を放ってくる鬼教師。
くそ鬼教師め。
黙ってればかっこいいのに。
てか、その殺気しまえ。周りの人が怖がってる。震えてる人までいるからね。
「とりあえず、これやれ。これやれば少しは成績とれるんだ。まさか、また留年したいなんて思ってねーだろ。一年だってぎりぎりの成績で二年になったんだ。しかも、俺の援助のおかげでな」
「あ、なんですか、地味に俺偉いだろって言ってますよね」
「あぁ、そうですけど?・・・・じゃねぇよ。いいか!?とりあえず、テストしやがれ!!」
半ば投げやりになってテストを押し付けてくる鬼教師。
ふざけんな、ふざけんな。
私は眉間にしわを寄せて
「結構です。私は面倒なんでやりません。やる必要性とかないんで」
「あのなぁ、将来困るからな?」
「一応、私の将来決まってるんで」
「…あぁ、そうだったな」
なんてシリアスなムードなんだろう。
え、なに、私があの家に生まれたから?
だから線背はこうやって押し黙るような雰囲気だすわけ?
「私、やりません」
私も先生を見習ってテストを押し付ける。
この教室にはいたくない。
あまり好きじゃないのだ。
この教室も、この学校も。
自分の席に向かって小走りして、机の横にかけてある鞄を持ち、全力疾走で廊下を駆け抜ける。
一応、100メートル11秒という奇跡な記録を出した私。風のように駆け抜けるこの感覚がとても気持ちがいい。
階段をふたつ飛びして駆け上がる。目指すはあの場所。
私だけの、私専用の場所。
――――屋上だ。
ナギサちゃんと少年。
いったいどういう関係で、少年はいったい・・・?
どんどん更新いたしましょう!