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小林 瞬の場合

「今年のミスターは法学部1年の坂上海翔君、ミスは同じく法学部1年の川原綾乃さんです!!」

文化祭の一番大きなステージの上で、綾乃はたっていた。

白い水玉のシャツに、紺の無地のスカートに淡いピンクのサンダル。

茶髪のカールがかったハーフアップ。

美しさは俺の目の前にいる男性を釘付けにしていた。

隣に立つ坂上海翔君には女性たちが集まっていた。

とても爽やかで、笑うとくしゃっとする。

どこかの俳優のような雰囲気を醸し出していた。

俺はそこを立ち去り、奥のベンチに座ってほとぼりが冷めるのを待つ。

目の前またくさんの人が通りすぎたあと、ようやくステージががらがらになった。

もうひとつのステージからギターの音が聞こえてきて、客はみんなそちらに流れて行った。

そのなかを掻き分けるように綾乃が走ってくる。

「瞬!お待たせー!」

「別に待ってないよ。それより、お疲れ」

隣に座り一息つく綾乃は先程までのキラキラが消えてどこにでもいるような普通の女子大生だった。

「ミスだってー!まさかこんなことになるとは」

背伸びをして綾乃はそんなことを呟く。

「周りのやつらはみんなお前がミスだって信じて疑わなかったようだけどな」

「瞬は?どう思っていたのよ」

「俺?まぁその可能性は高いかもなとは思っていたが」

夕暮れどきだから、空はマジックアワーだった。

赤紫のような少し神秘的な色をしていた。

「それよりさ、私声かけらちゃった」

「誰に」

珍しく少し躊躇うように時間をおいていた。

深呼吸をひとつして、ゆっくり吐き出すようにいった。

「坂上海翔くんに」


***

普段立ち寄ることのない外国語学部の建物の中に俺はいた。

目の前をたくさんの人か通るなか、綾乃と坂上君の二人をみかけた。

あぁだからこんなこと思い出したのか。

まだ俺たちが一年生の時のあの記憶。

あの二人が始まった大切なきっかけである。

窓際に一番近くに座って人の流れを見ながら、あと5分ほどて始まる夏休みのインターンシップの話を待っていた。

俺の隣の席は空席で、他も同じくらいまばらに生徒が座っていた。

「おい、あれ見ろよ。ミス&ミスターカップルだぜ。悔しいがやっぱり華あるよな」

そんな野次馬根性丸出しな男の声が聞こえた。

綾乃が付き合った時、俺は対して驚かなかった。

それに騒ぐほどの問題でもないような気かする。

中学生じゃあるまいし、誰が誰と付き合っても別に個人の自由。

なんでそれが最大の関心ごとなのかも甚だ疑問である。

「あの、ここいいですか?」

声を掛けられて振り替えると人当たりの良さが顔に滲み出ているよな柔和な顔が見えた。

どちらかといえば目立たないだろうが、人に嫌われることはないだろうと言い切れる雰囲気の男性だ。

「あ、どうぞ」

彼が座って数分後に、インターンシップの

担当教授がやって来て、概要を話始めた。

内容は概ね事前に配られたプリントからだから大して聞かなくとも問題はなかった。

暇潰しがてら窓の外を見ていると、綾乃と坂上くんは外のベンチみたいなところでくつろいでいた。

「〇〇商社行くやつ、いるか?」

教授の声で我に返り黙って右手をあげると、隣の男も手をあげた。

俺とそいつは思わず目を合わせてなんとなくお辞儀をした。

教授の話が終わり、解散しようと学生が片付けわ始めると、その男は俺に話しかけてきた。

「俺、法学部の堀田基って言うんだけど、君は?」

屈託のない笑顔で話しかけるから、いつもなら適当に流すはずなのに、そのときは流せなかった。

「俺は経済の小林瞬だけど」

「小林くんね!同じ会社のインターンだし、よろしく!」

「ああ、よろしく」

これが堀田との初めての出会いだった。

なんの疑いもなく笑うそのほがらかな性格は半ば羨ましくもなる。

堀田は全然飾らないし、無理に大人にもなろうとしなかった。

常に自然体で、嘘なんてつけるタイプではないのはなんとなく雰囲気でわかる。

その内いろいろ話して分かったことがあった。

それは、堀田が坂上の親友だったってことである。


***

「堀田基、知ってる?」

俺の家のリビングでさも自分の家のようにくつろぐ綾乃に声をかけた。

お茶を飲み、クッキーを頬張る姿はとても他人とは思えない。

「知ってるよ。瞬こそ知ってるの」

「まぁ。インターンで同じ会社だったから、少し話した」

綾乃はこちらを向いてなにか思い出したように笑う。

「堀田ってさぁ、何であんなに屈託のない笑顔できるのかなぁ。いつも素直で羨ましいよ」

「嘘をつけるタイプじゃないな」

「そうね。私や瞬と違って」

「俺を出すなよ」

綾乃は笑いながら未だにクッキーを食べる。

「お前の彼氏と親友みたいだな」

「うん。かなり仲良しだよ。海翔は堀田と話しているときだけ素でいられてる感じ」

「綾乃のときよりも?」

目を伏せた彼女の姿は、儚いながらも美しさを纏っていた。

綾乃は昔と変わらない、きれいなままだ。本当希少価値並みに。

こんな綺麗な奴がそばにいて何も思わない俺も俺で希少価値かもしれないが。

「否定しない。私の素は瞬が一番知ってる」

「恋人でもない俺がな」

「たからこそ、でしょ?」

俺と綾乃は幼馴染みだ。

でも昔からモテる綾乃に近づけば、周りのちょっとイケメンなやつらから面白くないと言われる。

変に有名になる。

俺はその状態を避けようと、綾乃と二人で何か学校ですることは極力やらなかった。

でも家は近いからこうやって当たり前のように居座るのだが。

「さすがに坂上くんに恨まれそうだ」

「何で?私たちがそうなる可能性ってある?」

「いや、ないけどさ。坂上くん、俺のこと知らないんでしょ」

「教えてない。まぁ、言うほどでもないじゃない。それより怪しむのは私の方ね」

「綾乃が?」

綾乃は昔から恋人が例えできても相手を怪しんだり、疑ったりはしなかった。

それは愛とかいう綺麗なものではなくて、

単純に綾乃事態があまり興味かないのだろうと思う。

考えてみれば彼女から誰かを好きになったことなんてない気がした。

俺が思い出せる範囲では。

「海翔にも幼馴染みいるんだー。同じ大学に外国語学部の秀才さん。すごくドライで大人なのに、海翔の前だと本当素が出るの。海翔も同じ感じ。あぁ、この二人は互いのこと気許してるんだなって。思わずこんな私が嫉妬してしまうほど」

「へー、綾乃を嫉妬させる女ってすげぇな」

「でしょ?かなり貴重。でも不思議と嫌いになれないの」

「何で」

「うーん、よく分かんないけどどこかで海翔とどうにかなってもいいかもって思っちゃう。彼女になら海翔取られても納得っていうか」

「興味あるな。名前は?」

「英語語学科の伊藤真由子ちゃん」

その数日後、伊藤真由子に会うのだが、確かに飾らない、でも秀才、の綾乃が好きそうなタイプだった。

まるで中学の時の親友の委員長みたいな。


***

「綾乃がいないのよ」

恵梨香が顔色を真っ青にして話してきた。

「は?」

「なんか連絡とれなくて。瞬のところ来てない?」

初耳だった。

俺もたまたま連絡は取っていなく、綾乃が学校に来ていないこと、携帯に電源が入ってないことすら知らなかった。

俺はすぐに綾乃の電話にかけたが確かに繋がらない。

「何で電源切ってるんだ、あいつ」

「私だけじゃなくて坂上くんも音沙汰なし。ついでに堀田も。仕舞いの果てには真由子ちゃんにも」

「単純に気分のらないからじゃないの」

「そんなわけないって。確かにメールとか頻繁に返す人じゃないけど、そんなテキトー人間でもない」

恵梨香はかやり綾乃が大好きだ。というか、崇拝している。

いじめから救ってくれた救世主に恐ろしいくらい従順。

よく綾乃も嫌がらないなって感心していたくらいだ。

「やっぱりだめね。まだ電源入ってない」

恵梨香と話していると、遠くから水色のストライプのワンピースを着た伊藤真由子だった。

伊藤真由子と会うのは実はこれで3回目。

一回目は綾乃の紹介、2回目は偶然大学構内でそして3回目がこれである。

「あぁ、小林くん。あなたの方もだめ?」

「だめだよ。全く連絡がとれない」

「そう。本当綾乃ちゃん、どうしたのかな」

綾乃ちゃん。

どこか他人ででも精一杯の親しみを込めた言い方。

そういえば委員長もそう呼んでいたなと思う。

「とにかく、少し待ってみようか、電源入らなければ意味ないし」

恵梨香はスマートフォンを見つめなからため息を着いた。

「俺、家訪ねてみるわ」

恵梨香がそうね、と言ったが、伊藤真由子は怪訝な顔した。

「近くに住んでるの?」

「まぁ、そんな近くないけど」

と平然と嘘をつく。

伊藤真由子はそう、よろしくねと話した。

恵梨香が不思議そうな顔をしながら俺を見たが、なにも言わなかった。

伊藤真由子が授業だというので、見送ったあと恵梨香がこう言った。

「瞬が綾乃庇うなんて珍しい」

「庇ってない、綾乃に合わせただけだよ」

坂上くんにいう必要のないことを、守るために。






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