もう一度
ねぇ、覚えてる?
一年目の記念日。
私のほうが浮かれてたよね、たぶん。
いや多分じゃないか……
前の週から「どこ行く?」って何回も聞いて、ケーキ屋さんも調べて、当日はちょっとだけいい服着ようとか考えてさ。
ああ、そうだ。
この話の元はLINEだったね。
「今日、仕事で遅くなる。」
遅くなるって書いてあるのに、私の頭の中では勝手に会えないに変換してた。
なんでだろうね。
たったそれだけの違いなのに。
スマホ伏せて、天井見て、思いっきり落ち込んで。
楽しみにしてた自分が急にバカみたいに思えて。
お腹も空いてたし、コンビニでカップ麺買ったんだ。
レストランもキャンセルしてさ。
お湯を注いで三分。
待ってる間に、どんどん腹立ってきた。
仕事なら仕方ないって言えばいいのに、なんで私ばっかり楽しみにしてたんだろうって。
私より仕事が大切なのかな?とか。
今思うとめんどくさい女だったな。
多分電話、かけた。
「記念日くらい空けられないの?」って。
あんた、ちょっと黙ってから言ったよね。
「違う、今日は───」
そこで切ったの、私。
言い訳だと思った。
どうせ埋め合わせするからとか言うんでしょって。
なんでずっと過ごしてたのに気付かなかったんだろう。
あんたの性格考えたら分かるのに。
カップ麺の湯気が、やけに目にしみたんだよね。
泣いてたのか、湯気のせいか、分かんなかったけど。
ねぇ。
あのとき、あと五秒待てばよかったのかな。
数時間後に鳴った知らない番号。
声のトーンで出た瞬間に分かったよ。
病院の名前を聞いたとき、やっと気付いたんだ。
電話の向こうの雑音。
クラクションみたいな音。
電話、早く切っとけば良かったな。
いや、しなければ良かったのか。
私、ちゃんと聞いてなかった。
廊下はやけに明るくて、足音だけがやたら響いて。
「間に合いませんでした」って言われても、意味が追いつかなかった。
ねぇ、あの時はまだ寝てたんだよね?
私の声、届いてたよね?
ポケットから出てきた小さな箱。
箱、ちょっとだけ潰れててさ。
遅くなるの意味、そこでやっと分かった。
もっと早く気付けてたらなぁ。
私が怒鳴ってた時間、あんたはそれ、持ってたんだよね。
ねぇ。
最後まで聞かなかったことも、勝手に勘違いしたことも、ひとりで拗ねてたことも。
あんな、くっだらない言いがかりの事も。
全部全部全部全部全部、謝るからさ。
帰ってきてよ。
連。




