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ひ:秘めた想い

 ご結婚おめでとうございます。

 彼女は、彼に向けて呟いた。

 その声は、彼に届く事はないけれど。




 海を臨む、小高い丘の上の教会。

 幸せそうな新郎新婦が笑う。

 友人達だけによるささやかな祝い。

 この場に呼べなかった妹の事を、どうしても新婦は考えてしまう。




 あなたの事、大好きなんです。

 彼女の独自は風に流れる。

 大好きで、大好きで、大好き過ぎたから、私どうしてもあなたの想い出に残りたかったの。

 残ってる?

 私の事、覚えていてね。

 私の事、ずっと考えていてね。

 記憶の片隅で。

 ずうっと……。




 物心つく頃から、二人はたった二人きりで生きてきた。

 互いに支え合い、身を寄せ合って暮らす姉妹。互いの存在が、互いにとっての生き甲斐・支えだった。

 ……大事な妹。可愛い、何より大切な妹だから、付き合い出した彼をすぐに紹介した。

 妹も彼と打ち解けてくれて、それからは三人で逢う機会も多かった。

 あたし達は、上手くやれてた。結婚してからだって、妹と親しく暮らしていけると思ってた。

 ……思ってたのに。

 心の中、新婦は唇を噛む。




 私、忘れられたくなかったの。

 結婚した後でも、多分お姉ちゃんの事だから、旦那さんよりも私の事を優先してくれると思うの。

 でも、そんなお情けに、私は縋りたくなかったの。

 「いつか離れていくただの妹」。そんなの、私は我慢出来なかったの。

 お姉ちゃんの、ちゃんとした「特別」になりたかったの。

 だから、私――




 ……あたしはまだこの人を許せてない。

 微笑みの奥で、憎しみは燃える。

 張り付けた笑みで、新婦は新郎に寄り添う。

 妹に手を出した男。あたしにそれを気付かれた事を知りもしないこの人の隣で、あたしは笑い続けるしかない。知らない振りで。

 ……許せる訳はない。

 この人と、あの子の事も。

 きっとあたしは、一生許せない……。




 可愛いだけじゃ、その内追いやられてしまうから。

 「ただの妹」として、いつか忘れられてしまうから。

 「いつか離れていく仲良しの妹」よりも、「許せない位憎らしい妹」になる事を、私は選んだの。

 そっちの方が、お姉ちゃんの意識にずっと私が生きるでしょうから。




 ご結婚、おめでとうございます。

 彼女は今度は、愛する姉に向けて呟いた。

 大好きなお姉ちゃん。

 私はあなたから離れてあげないよ。

 私はあなたを離してあげないよ。

 大好きなお姉ちゃん。

 ……ずうっと、私の事を考えていてね。

 微かな記憶の片隅で。

 ずうっと。

 ずうっと。

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