9. 情報交換
「で、あの皇子との未来についても君は何か視たんだろう。だから、あの男を避けている。」
リアスが指さす先には、ライラ嬢といちゃつく殿下の姿があった。裏庭のガゼボが彼らの密会場所なのだろう。家族からは、未来視や未来視で視た未来について他言しないように言われている。しかし、同じ神眼を持つ彼をごまかすことはできないと思った。
「私、あの二人に断罪されるの、卒業舞踏会で。それで、北の古城に連行されるときに馬車ごと死の谷に落ちて……死んじゃうの。」
私の頬を一筋の涙がこぼれ落ちた。自分が死ぬ瞬間を思い出すのは、やっぱりつらい。
「興味深いな、その予知。」
「はじめはまさかと思ったけど、他の予知夢と違って、何度も何度も繰り返しこの未来を視るの。ライラ嬢とも全く面識がなかったのに、夢で彼女があざ笑う姿を何度も視たわ。」
「……あの女、ただの狡猾な女狐じゃないぞ。」
「え?」
「俺は、あの女を神眼で"鑑定"したことがある。あれは……ニオ共和国の諜報員だ。」
ニオ共和国は、フィーラ帝国とトヴォー王国の南に位置する新興国家である。かつてはエット公爵が統治する『エット公国』であったが、重税に苦しんだ市民が蜂起し、革命の末に共和制へと移行した。領土の広さではフィーラ帝国やトヴォー王国に及ばないものの、総統の強力な指導のもとで軍備を拡充していると噂され、両大国からは仮想敵国として警戒されている。
「ならば早く証拠を集めて皇宮に報告しないと!」
「まあ待て。あんな学も品もない女、どう転んだって皇妃にはなれないだろう?」
「……それはまあ。」
彼女はもともと子爵家の私生児で、最近になって引き取られたという。礼儀作法もまだ危うく、言葉遣いにもどこか庶民の素朴さが残っていると聞いた。殿下の目にはそれがかえって魅力的に映ったのだろう――と、兄は言っていた。
「本来の目的であれば、側妃で十分なはずだ。皇宮には潜り込めるからな。わざわざ目立つことをして、未来の皇妃であるお前を消そうとしたのは……。」
「ん!?」
「――気づかれたと思って消したと考えるのが妥当だろう。だとしたら、このまま泳がしておいた方が好都合。下手に動くな。今のまま極力、あの二人を避けろ。避け続けろ。その間に俺があの女を徹底的に調べあげる。何か分かったら、お前にも教えるから。」
「確かにそうね。でも、あなたがどこまで信じられるのか、私にはそちらも問題だわ。」
「ニオ共和国の脅威に関しては、フィーラ帝国とトヴォー王国は立場が同じはずだ。そこは信頼してもらって大丈夫だと思うが?」
赤い瞳でマジマジと見つめられ、思わず目をそらした。
「ありがとう。定期的にここで、情報交換をしましょう。私はもっと視たいものが視れるように未来視を練習するわ。」
「そうだな。ひいては両国の利益のために。」
そう言って、リアスは不敵に笑った。




