4. 降伏
敵陣もこちらに精霊使いがいると知っていたら、おそらくこの状況で戦争を仕掛けてこなかっただろう。だってトヴォー側の補給が間に合わないことを見越して、この時期に停戦を破って進軍したのだから。でも実際は、巧みに精霊を使いこなせる術師が戦闘に加われば、一体で戦況がひっくり返ることもある。精霊二体での応戦は、まさに奇襲成功という訳だ。
雨が止んで、業火の熱波で地面が乾き始めた。
「スルゲ・ゴーレム!――目覚めよ、ゴーレム!」
ゴーレムを再召喚する。すっかりボロボロになった敵陣を、ゴーレムでなぎ倒していく。後からフィーラの騎士たちが攻め入る。
ニオの魔法騎士は、なおも抵抗を続けている。けれど1対2で圧倒的に不利と言われていたトヴォーの戦況は大きくひっくり返りつつあった。
「イグネム・デトナ!――炎よ、爆ぜろ。」
リアスが叫び声と轟音が戦場に響く。業火が遂に、鉄壁だったニオの防護魔法にヒビを入れていく。
「フランマエ・インフェルニ!――地獄の業火。」
要塞を丸ごと炎が包んだ。ニオの騎士全体を覆っていた防護魔法も解けた。
「スルゲ・ゴーレム!――目覚めよ、ゴーレム!」
私もさらにゴーレムの数を増やし、援護する。不死鳥はニオ側の騎士を焼き払い始めた。
――皆に告ぐ。フィーラ皇帝がボルタ部隊を正式に反乱軍とみなした。これから討伐に向かうと、皇帝よりトヴォー王に連絡があった。ニオは停戦の申し込みをしてきている。できる限り、捕虜として騎士たちを確保せよ。賠償金の交渉材料とする。
ノルディーン部隊長の声が、脳内に直接響いてくる。ああ、これは通信魔法の一種だ。通信魔法そのものは、さほど難しい魔法ではないが、傍受や妨害を受けやすいのが欠点だ。その欠点を補いながら、しかも複数の相手に同時に脳内に届けるのは、かなり高度で専門的な魔法である。
この知らせを受け、フィーラとニオの魔法騎士の部隊を一人で戦闘不能にしたリアスも、戻ってきた。
「やったわー!リアス!フィーラに留学していた頃より、技のキレと威力が増しているんじゃない?」
「まあ雑魚しかいなかったからな。」
「せっかく人がほめているんだから、素直に喜びなさいよ!」
「ああ。ありがとう!」
そこに、ノルディーン部隊長がやってきた。
「殿下、さすがのご活躍です。魔力補給ポーションをどうぞ。」
「ありがとう。初めから俺たちがいると分かったら、多分向こうも魔法騎士の編成を変えただろうから、今回はたまたまだ。」
リアスは渡された魔力補給ポーションを勢いよく飲み干した。私もノルディーン部隊長に渡されたポーションに恐る恐る口を付ける。さわやかな酸味があって、魔法大会で飲んだものよりもだいぶ飲みやすかった。
「あとは、フィーラの反乱軍を打ち取るだけです。」
「ああ、任せろ。」
――皆に告ぐ。フィーラの反乱軍は降伏はしないと言っている。第1部隊から第3部隊までは、フィーラの要塞を取り囲め。これから反乱軍首謀者のマティアス殿下の首をとる。
遂に……。フィーラ側から反乱軍認定されてしまえば、行くも地獄、退くも地獄。もはや、マティアス殿下は退くに退けないのだろう。
「お前の元婚約者も堕ちたものだな。」
「ニオのスパイに現を抜かした時点で廃嫡にすればよかったんです。」
「そういえばお前、フィーラのボルタ要塞の構造は分かっているか?」
「ええ、大まかには。妃教育で国の機密情報もある程度は勉強しましたから。」
「細かいところは大丈夫だ。この眼を使うからな。よし、お前の視た未来を現実のものにしに行くぞ。」




