3. シルフ
リアスはまっすぐに敵陣に突っ込んでいった。召喚した精霊とは魔力だけではなく、感覚も共有できる。私はフェニクスの眼を、耳を通じて、敵地の様子を探る。リアスは、ニオとフィーラ双方から魔法と物理の両方の攻撃を受けつつ、防護魔法と、炎魔法による反撃でそれを交わしていった。途中、何本かの矢が炎龍に当たり、龍が低い唸り声をあげた。しかし、雨天でも炎龍は最上位精霊だ。次に飛んでくる矢と槍を一吹きで焼き払った。フィーラの要塞の付近まで近づくと、リアスは一気に猛攻を仕掛けた。
「アエリス・キルキトゥス――雷撃の網!」
なるほど、雷撃自体は、炎魔法と違って天候操作の影響を受けづらい。電撃の導線を張り巡らせ、敵の動きを封じるつもりか。
「トニトルス・レックス――雷帝の轟!」
雷帝の轟は、一度の詠唱で何度も強力な雷撃を相手に加えることができる大技だ。雷雲を呼び寄せることで、縦横無尽に雷撃を散らす。一気にフィーラの要塞の上に黒い雲が立ち込め、不規則な雷撃が発せられる。もう少しで防御魔法に穴が開く、そう思った時だった。シルフが現れて、竜巻で黒い雲を吹き飛ばした。効率的な技だが、やはりシルフとは相性が悪かったようだ。
「やはりそうくるか。ならば数で勝つ。サジッタ・フルミニス――雷の矢!」
リアスはすぐに作戦を変えた。杖を流れるようにふり、詠唱を続け、色々な角度から雷の矢を放っていく。矢の放ち方は乱射に近い。ここまでいくつもの魔法陣を同時に扱える人間はほんの一握り。フィーラは防戦に集中している。
母国・フィーラで騎士を志す者は、平民や、婿入り先のない貴族の次男・三男が多い。その中でも貴族の子息は何かしらの魔力を持っていることが多く、少しでも戦闘魔法が扱えれば、エリート職である魔法騎士に志願する。だがその実力は、ランデル伯爵のように上位精霊を呼べる者から、簡単な攻撃魔法がやっと使える程度の者まで、天と地ほども開きがある。
今回ボルタに派遣されているフィーラの騎士には、ランデル伯爵以外は、巧みに戦闘魔法を扱う者はいないようだ。そもそもマティアス殿下が勝手に開戦しただけで、戦闘配備になっていないのだろう。フィーラ皇帝は、現在まで静観の立場を取っていて、ボルタには騎士や戦備の補給もないと聞く。
遂に、ニオ側からの援護射撃もなくなった。この状況で下手に手を出せば、かえってフィーラに被害が及ぶ可能性もある。援護したくても手を出せないのだろう。シルフが主人を守るようにリアスの前に立ちふさがり、強力な風魔法で応戦する。
「サジッタ・フルミニス――雷の矢!」
攻撃の手を緩めることなく、リアスがさらに雷撃を放っていく。炎龍も火炎を吹き、シルフの攻撃に立ち向かう。遂に雷の矢が要塞の防御魔法を貫通した。
「トニトルス・レックス――雷帝の轟!」
シルフが再びその黒雲を追い払おうとしたが、リアスの魔法陣の展開が一歩早かった。
黒雲から放たれる強烈な雷撃が、フィーラの要塞を貫いたその瞬間、風が凪いだ。ランデル伯爵が戦闘不能に陥ったのだろう。天を翔けていたシルフが、羽根を散らすように霧散し、静かに姿を消す――その瞬間、戦場を覆っていた雲が晴れ、降っていた雨も止んだ。
――こうなれば、こちらの独壇場だ。
「フランマエ・インフェルニ!――地獄の業火。」
リアスの放つ炎が、先程よりもはるかに威力を増して、戦場を熱く燃やしていく。
「フェニクスも、援護を!」
さらに炎龍と不死鳥も敵陣を火の海にしていく。先程の抗戦でフィーラの魔法騎士はほぼ殲滅状態、ニオの魔法騎士たちが防護魔法でその騎士を守りながら、水魔法で戦場の消火に当たるが、こうなると焼け石に水で、トヴォーの要塞まで煤の匂いが漂ってきた。
リアスは次にニオ側の魔法騎士を殲滅することにしたようだ。炎龍の吐く火炎と地獄の業火がニオの魔法騎士たちを飲み込む。ただフィーラと違って、魔道具で魔力強化しているだけのことはある。防御魔法で何とか耐え、さらに水魔法で応戦してきた。
私はリアスがニオの魔法騎士たちを追いこんでいる間に、フェニクスの力でフィーラの一般騎士たちを焼き尽くしていく。彼らは祖国の騎士たちだ。もちろん私にも思いはある。ただこうして戦場で敵と向かい合っている以上、闘わないといけない。あの未来を現実のものにするために、私の大切なものを守るため、マティアス殿下に討ち勝つしかないのだ。




