1. 参戦
遺跡からボルタの要塞までは、馬を飛ばせば小一時間の距離だ。私もリアスのすぐ後を追って馬を走らせた。やがて視界に入った要塞は、石造りで頑健な造りをしていた。
「こっちだ。フィーラやニオ側から見えないように、裏から入るぞ。」
中に入ると、トヴォーの騎士たちに迎えられた。
「エリアス殿下、お待ちしておりました。う、後ろにいるのは戦闘狂令嬢!?」
初めて会う騎士にも、まさかその二つ名を知られているとは。さすが権威のある魔法大会だ。
「ああ、彼女にも支援を頼んだ。国の一大事だからな。で、部隊長はどこだ。早く話がしたい。」
「殿下、ご案内します。」
私たちは、石造りの廊下を騎士に先導されて歩く。
「部隊長、エリアス殿下をお連れしました。」
「入ってくれ。」
部屋はそれなりの広さはあるが、貴族の邸宅のような豪華さは全くなく、無駄なものが一切置かれていない、いかにも要塞らしい一室だった。
「これはこれは、エリアス殿下。この地で、部隊長をしているニクラス・ノルディーンと申します。どうか、ニクラスと。」
壮年の赤髪の騎士が、臣下の礼をした。
「楽にしていい。早速、戦況を教えて欲しい。」
「ありがとうございます。では、そちらにおかけ下さい。」
どことなくシモンに似ているなと思ったが、リューブラント侯爵家の傍系らしい。相手の騎士数、武具、戦法、ボルタの地形について、詳しく説明を受ける。
「――つまり騎士の数では圧倒的に負けているということか。」
「そうですね。もともと1対2ですから。陛下に援軍を頼んでいますが、態勢が整うまで一週間はかかる見込みです。」
「うむ。それで、向こうの魔法騎士はどうだ?」
「こちらに伝わっている情報では、まずフィーラには一軍の魔法騎士はいません。ただ風の精霊使いが一人。」
「ランデル伯爵でしょうか?」
風の精霊使いと言われて、すぐに彼の顔が思い浮かんだ。黒髪に緑眼の中年の紳士で、皇宮主催のパーティで一度見かけたことがある。遊び人として有名な人で、貴族学院で学友だったシーラ様の婚約者だ。
「よくご存じですね。おっしゃる通り、ランデル伯爵です。」
「彼は精霊使いなので、有事に協力できるよう魔法騎士として騎士団に籍がありますが、どちらかといえば商人です。何故この戦場に……。」
「ランデル伯爵は、武器商人だろ。ニオとの共同戦線で、商機があると思ったんじゃないか。」
「なるほど……。」
「そこまで把握されているならもちろんご存じでしょうが、彼の精霊は、風の上位精霊シルフ。つまり天候も自在に操れるということです。」
「――シルフは、私の炎龍だと少し相性が悪いな。ニオ側は?」
「今回の戦線では、あちらに精霊使いはいません。ただ古代魔法を利用した魔道具で魔法騎士たちは魔力強化されています。」
「古代魔法ですか。」
魔力の最大値は生まれつき決まっている。"強化"と言えば聞こえがいいが、おそらく魔力の前借だ。古代文明にはそういう恐ろしい魔法があったと聞いたことがある。ちなみにこれは魔力を増強する代わりに、大きく寿命を縮めるため、現在は国家間の条約で禁術とされている。自国の戦士にそんな魔道具を使うなんて、ニオはやはり人命を道具としか思っていない。
「――まずはシルフを叩くのが良さそうだな。」
しばしの沈黙の後、リアスが口を開いた。炎属性や氷属性の魔法は環境によってその威力が大きく変わる。炎龍や氷龍は最上位の精霊だが、天候を操るシルフがいると100%の力が出せない。
「そうですね。私がフェニクスを召喚して援軍します。騎士数で負けても精霊は2対1になるので、こちらにも勝機があるはずです。」
「ああ、そうだな。共に焼き払っていこう。」
自信に満ちたリアスの笑みが頼もしかった。




