9. 出陣
「――君は王都に戻れ。俺はボルタの要塞へ向かう。」
「え!?騎士隊には魔法騎士もいるはずです。リアスが行かなくても――」
「お前は視たんだろう?俺が加勢して、トヴォーが優勢になる未来を。」
「……ええ、でも。」
「なら俺が行く。こうして呪いも解けたし、大人しくしていられない性分でね。お前が視た未来を現実にしてくるよ。……マティアス殿下の泣き顔も拝みたいからな。」
冗談めかした一言に胸が締めつけられる。
――そして私ははっと気づいた。マティアス殿下が死に際に、私の名前を呼んだことを。未来視で、何度も自分自身の未来を視た。けれど、その夢に"私自身の姿"が映り込むことはなかった。だから、見落としていた。
「私も行きます!あの時視た未来で、マティアス殿下は確かに私の名を叫んでいました。生前ろくに私を好いていなかった殿下が、死に際に私を思い出すはずがない。――きっと、私もその場にいるんです。いるはずなんです。」
リアスは一瞬何かを悩むように、少し眉間にしわを寄せて言った。
「……そうは言っても、お前、ろくに実戦経験ないだろう?これは遊びじゃないし、治癒魔法を使えない君を危ない目に遭わせるわけにいかない。」
「私を誰だと思っているの?今年の魔法大会優勝者よ!あと、私もマティアス殿下の泣き顔をこの目でみたいの。」
リアスはさらに困惑した表情を浮かべたが、意を決したように言った。
「――まあ君は止めても聞かないよな。でも、これだけは約束してくれ。絶対に自分を犠牲にするような真似だけはするな。」
「ええ、もちろん。心配し過ぎよ。戦闘狂令嬢として必ず役に立ってみせますわ。」
私たちが話していると、サリーン男爵が駆け寄ってきた。
「所長……。」
「テオドル、俺たちはボルタの要塞へ向かう。フィーラもニオ側が優勢と分かったら、マティアス殿下の反乱を肯定して、援軍を送ってくる可能性があるからな。ここで情勢をひっくり返す必要がある。」
「――分かりました。発掘は終わっていますし、出土品の搬送は、私たちだけでも何とかなると思います。」
「では、よろしく頼む。」
「装備は余っているものが詰め所にたくさんありますから、自由に持って行って下さい。」
「ありがとうな、テオドル。」
遺跡発掘の詰め所に入って倉庫を漁る。さすが魔法研究所。詰め所には色々な装備が残っていた。身体強化ブーツ、呪いをはじくペンダント、そして耐魔法性ローブ。全身を魔道具で固める。気のせいかもしれないが、全身に力がみなぎってきた気がする。準備万端だ。
「リアス、準備できました。いつでも行けます!」
「だいぶ、"レディー"も支度が早くなったな。でも、その前にコイツをどうにかしないと。」
リアスが地下遺跡を指さした。そういえば、ここを立ち去る前に完全に破壊すると言っていたっけ。リアスは入念に人払いを済ませた。
「――では、始めるぞ。」
「はい。」
「イグネム・デトナ!――炎よ、爆ぜろ」
リアスと息を合わせ、同時詠唱すると地下遺跡を大きな轟音と業火が包んだ。そのまま下層に崩れ落ちていく。なんだか、とてつもなくもったいないことをしている気がした。これは古代文明の大切な遺産だ。だが、このまま残せば、ニオは残された手がかりから"死の太陽"を復活させるかも知れない。それだけは絶対に許されない。しばらく燃えて崩れていく遺跡を眺めていた。
「ランケア・アクアエ!――水の槍」
最後は、私が水魔法で消火し、サリーン男爵たちと完全に遺跡が破壊されたことを確認した。
「よし、行こう。」
馬に跨り、いざボルタ要塞へ。リアスと要塞のある南へと向かった。
第四幕 ボルタ遺跡、ここまでです!
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