3. ボルタ遺跡
一人女子ということで、詰め所の小さな個室を貸してもらえた。簡易ベッドで寝心地は良くなかったが、馬車旅で疲れていたのか、ぐっすり眠れた。翌日は早朝から、ありとあらゆる防具を身に付けて、遺跡に潜る準備をした。あ、そうだポーションもたくさん持っていこう。髪の毛は邪魔にならないようにポニーテールにまとめた。
遺跡の入り口は、階段以外何もない。死の太陽に焼かれた地上の建造物はどんな施設だったんだろうと少し思った。
「中は暗いですから、足元に気を付けて下さい。」
今日の探索はサリーン男爵に先導されて遺跡を進む。私もリアスの後についておそるおそる足を踏み入れる。
「そういえば、ユカライネン第一補佐官はフィーラのユングリング侯爵家の血筋ですよね?ということは、本来の御髪は銀色なのですか?ユングリングの御髪はまるで天界の御方のように美しいと、噂に聞いております。」
ロビンが後ろから話しかけてくる。今日も今日とて鼻息が荒く、まくし立ててくる。リアスが牽制する。
「遺跡の中だぞ。私語を慎め。ロビン。」
予め言われていた最短ルートを、サリーン男爵に案内されて進む。もう何度も、通ったことがあるのだろう。途中仕掛けられた罠にも慣れたもので、いとも容易く交わしながら、最下層へ潜っていく。
「あ、ここは真ん中が落とし穴になっています。また、右側の壁に触れると、天井が落ちてくる仕掛けになっています。左側を通りましょう。」
「はい。」
「この階段を降りると、いよいよ最下層です。」
メンバー全員に緊張感が走る。
「最下層の扉を開くと、中にいる魔獣が襲い掛かってきます。作戦通り私たちが魔獣の気を引きますから、所長はギリギリまで鑑定を進めて下さい。」
「ああ。」
サリーン男爵が、石でできた大きな扉に魔力を通すと扉が地鳴りと共に開いていく。血と土の匂いがむっと広がり、獣たちの咆哮が石壁を震わせた。漆黒の毛並みの狼、鱗が鈍く光る大蛇、鋭い嘴の猛禽――様々な魔獣が扉から一気に飛び出してくる。サリーン男爵が得意とするのは水魔法だ。遺跡を傷つけぬよう、対象だけを狙って水流を凝縮させ破砕する。一瞬で、魔狼の首が水鎌で刈り取られた。
ロビンは「僕は戦闘魔法は得意じゃない」と言いながら、ゴーレムを召喚して魔獣の侵攻を止めてくれている。私は得意の隠遁魔法を私とリアスの周りにかける。魔獣たちは私たちのことに気づいていない。リアスの眼が金色に輝く。
「――ん?どういうことだ。部屋の奥が視たい。悪い、エディット持ち上げてくれ。」
しょうがないので、リアスをおんぶする。シェルストレーム辺境伯のトレーニングが役に立った。
「やっぱりか。この階層に動力源はないぞ。」
「でもここが最下層なんですよね?」
「ああ。出土された遺跡の地図をもとに発掘を進めている。ここが最下層のはずだ。」
「……エーヴェルトの墓所みたいに隠し部屋があるとか?」
「いや、そうすると厄介だが、この部屋には入口がない。」
「もしかしてこの部屋は囮で、入り口は別の階層?」
「どことも通じていない可能性もある。これだけの魔獣にエネルギーを供給できるということは、ここが動力源にもっとも近い部屋であることは間違いない。」
「――ではどうします?」
「一周この部屋を回ってくれ。」
言われた通り、魔獣から隠れながら、部屋の奥の方に進む。
「ん。これは。ちょっと下ろしてくれ。」
よく見ると周りの石畳よりも、少し大きい石がある。それを鑑定を使ってマジマジと見ている。
「何か分かった?リアス。」
そう言って私もしゃがんだ、その時だった。右斜め後ろから、魔獣が襲い掛かってきた。そう、隠遁魔法は完璧ではない。まずい。少し油断していた。
「フリゲ!――凍れ!」
私の放った冷気は対象を確実にとらえ拘束したが、一歩遅かった。魔獣の咆哮と共に放たれた衝撃波が、真正面から襲いかかってくる。咄嗟にリアスを抱き寄せ、防御魔法を展開する。リアスを怪我させてはいけない。そう思って強力な防御魔法を展開した。それが裏目に出た。衝撃波は弾かれ、反射した力が床を打ち砕いたのだ。
耳をつんざく轟音。石畳が裂け、地面が崩れ落ちる。
「きゃ――!」
重力に引きずられ、視界がぐるりと反転する。砕けた石と土煙が渦を巻き、私とリアスの身体は暗闇のさらなる下層へと呑み込まれていった。




