2. 作戦
遺跡にたどり着くと、サリーン男爵が出迎えてくれた。
「所長、ユカライネン第一補佐官。国境付近は一時停戦状態です。本当は遺跡のことは我々だけで何とかしたかったのですが、申し訳ありません。最下層以外の発掘は終わっています。発掘済みの"死の太陽"のパーツは既に王都の研究所に送っています。」
「ありがとう。あの動力源は魔力の永久機関だ。動力源そのものを破壊しないと、魔獣はいくら倒しても減らないだろう。」
「ええ、我々だけで行ったときは、動力源がどこにあるかすら分からず、襲い掛かる魔獣に対処するだけで精一杯でした。」
「とにかく、詰め所の中で作戦を立てよう。」
遺跡の近くに立てられた仮設の詰め所に案内される。簡素な作りで、中は食料や魔道具が乱雑に置かれている。魔法研究所の職員という人が他に二人いた。見覚えのあるアッシュブロンドの男性が駆け寄ってきた。
「ああ!ユカライネン第一補佐官!お待ちしておりました!この前は、ゆっくりお話しできる時間がなかったので、今日からあなたと任務に加わると聞いて、とてもうれしいです。早速ですが、ぜひ魔力の錬成法についてご教示下さい。あれだけ多くの属性を一度に扱うなんて、あなたの魔力回路は……。」
ロビンだ。相変わらずテンションが高い。そして、話が長い。
「すまない、エディット。ロビンは呪い、特にその解呪に関しては、一流の研究者であることは間違いない。だから発掘調査チームに入ってもらったんだ。」
リアスが私とロビンの間に入って、彼を止めた。
もう一人の研究員は、サリーン男爵の助手のオロフという。大人しそうな黒髪の青年だ。早速、オロフは遺跡の地図を見せ、5層ある遺跡の構造を説明してくれた。リアスがここに満を持してやって来たのは、遺跡と動力源の"鑑定"を行うためらしい。
「エーヴェルトの墓所でも思ったけど、物まで鑑定できるなんて、本当にすごい能力ね。」
「まあ、遺跡探索向きの才能ではあるよな。」
またロビンが再び目を輝かせて、話に食い込んで来た。
「ええ!所長は現王族唯一の"神眼"所持者ですからね。当代の神眼保持者は高位貴族にも数人いますが、神眼ってすごくすごくめずらしいんですよ。しかも"鑑定"なんて王家始祖・勇者イリスと同じ能力。国家機密で公表できないなんて、もったいない!まさに王位を継ぐべき方なのに。」
ロビンが、またとうとうと語り始めた。皆、いつものことと、彼を無視して話を進めている。半ばあきれ顔のリアスが「変な奴だが、怪しい奴ではないんだ。」と私に耳打ちした。
「そういえば、まーだ所長の呪いは解けないんですか?何度も言いましたが、あの解呪条件は絶対に間違っていないですよ。でもさすがの僕も焦りました。だって、まさかの所長の想い人が隣国の皇子のこんや……。痛っ!!!何するんですか、所長!親にも蹴られたことないのに~!」
「お前、余計なこと言うな!本当に!」
リアスが思いっきり、机の下でロビンの脛を蹴飛ばした。小さな体でも、脛を狙って蹴られると痛いのだろう。悶絶している。
「ロビン、少し私語が多いですよ。所長、私の作戦案を聞いていただいてもよろしいですか?」
サリーン男爵が、眉一つ動かさずに、机に広げられた遺跡の地図を指さす。
「続けろ。」
「はい。まず、この最短経路で第5層まで行きます。」
経路を指でなぞりながら、説明していく。
「第5層は"魔獣の間"。この部屋の奥に、動力源があると考えています。魔獣たちは動力源が動いている限り召喚される仕組みになっています。魔獣は人の匂いに敏感です。一時的に隠遁魔法で姿を隠せても、ずっとは無理です。初日は魔獣は私たちで惹き付けますから、所長は"鑑定"に集中してもらいます。ユカライネン第一補佐官は所長の護衛を。」
「はい。」
「"鑑定"で得られた情報を用いて、後日作戦を練り直して、動力源を停止します。動力源停止後に、あの階層にある壁画やパーツもできる限り資料として持ち出す予定です。」
「ああ。それでいこう。早速、明日潜るぞ。」
古代文明の遺跡か……。もちろんこれは遊びではないが、任務後取り壊されてしまうのであれば、ちゃんと一つ一つ見ておきたいなと思った。




