14. 記憶
辺境伯の屋敷に着くと、リアスをすぐにベッドに寝かせた。寝汗でぐっしょりとした額を布で拭ってやる。隠し部屋の幻影は結局何だったんだろう。古代魔法だとは思うが、精神侵食のあるものだったら、リアスだけが干渉を受けたのが不思議だ。時々、先程石板にあった名前「エヴェリーナ」と、うわ言のようにつぶやいている。
それに、あの墓は誰のものだったのか。今までエーヴェルトの墓だと言われていたが、あの石板には、エヴェリーナとあった。それにあの幻影の女性は、まるでイリスの恋人、妻のようだった。つまりあの部屋を作ったのは、あの術をかけたのは、イリス自身なのか?だからその子孫にあたるリアスがあの部屋を開けることができたのか。
そんなことを考えながら、リアスに付き添っていると、私もいつの間にか眠ってしまっていた。しばらくそのままベッドに突っ伏して寝ていたと思う。小さな手が頬を撫でているのに気づいた。
「……リアス?」
「エディット、目覚めたかい?」
リアスが優しく微笑んだ。
「ごめんなさい。あなたが起きるまで付き添っていようと思っていたのに、眠ってしまって。体調はどう?気持ち悪くない?」
「ああ、大丈夫だ。それにあの部屋にかけられていたのは、呪いじゃない。」
「でも、あなたが顔色悪いわよ。」
「……少し嫌なことを思い出しただけだ。」
「あの部屋は、我々には手には負えないと思うの。結界班に出張してもらってちゃんと調査してもらった方が良いんじゃないかしら?」
「そうだな。戻ったら、隠し部屋のことを報告にあげよう。」
にっこりはしているけど、表情が硬い。少しでも安心させようと思って、声をかけた。
「リアス、大丈夫よ。私がついてるから安心しなさい。何があっても、この"戦闘狂令嬢"が守ってあげるんだから。」
――急にリアスの表情が強張り、さっと血の気が引いた。
「頼むから『守る』なんて言わないでくれ。今度、今回こそは、俺は君と一緒に生きたいんだ。」
「リ、リアス?急に何を言っているの?」
「すまない。自分でもまだ混乱していて、今はまだどう言葉にしたらいいか分からない。ただ君は、なんでも自分を犠牲にしようなんて思わないでくれ。」
「……。」
やはりリアスの様子がおかしい。せっかく丸二日もかけてシェルストレーム辺境伯領まで来て、正直名残惜しいが、一国の王子をこのまま放置しておくわけにいかない。あの遺跡の隠し部屋も我々の手には負えないし、正式な調査を待った方が良いと思った。私は王都に戻ることを決断した。
翌朝スヴェンが呼んだ医師にリアスを診てもらった。身体の方は問題ないと言われた。でも、あの幻影を見てから、ずっと青ざめた顔をしている。精神汚染の類の呪いだと、早く専門家に診てもらった方が良い。
「何もそんな慌てて帰らなくても。まあその"神童"に何かあったら大変だもんな。またいつでも来いよ!」
「ええ、またお手合わせをお願いしたいわ。」
「今度はお前の氷龍に勝ってやる。」
「望むところよ。シモンもまたね!」
「ああ。親父たちを見返せるように、俺なりに頑張ってみるよ。」
「エディーお姉ちゃんまた来てね!」
双子ちゃんたちも声を揃えて、見送ってくれた。
私たちは、王都へと急いだ。




