13. 弟
「エディー、坊主大丈夫か?!」
スヴェンがすぐに駆け寄ってきてくれた。私は隠し部屋のことを、スヴェンたちに話した。元の部屋に戻ってからも、リアスはしばらく落ち着かない様子で、ボロボロ泣いていた。
「ははは。で坊主、隠し部屋がそんな怖かったのか?この歳で、魔法研究所に所属している神童って聞いたけど、大したことないな。」
スヴェンが笑った。
「部屋の石板におかしな魔法がかけられていたんです。精神汚染の可能性があります。リアスは私が運びます。」
リアスを背負って、来た道を戻る。背中でリアスはまだ幻想を見ているのか、「今度は絶対君を守るから、死なせないから」とずっとつぶやいていた。徐々に静かになり、遺跡から出る頃にはすっかり眠りについていた。小さい体では、体力がないのだ。
「エディーその子、俺が担ぐよ。君がここから一時間歩くなんて無理だろう?俺は魔法騎士として訓練しているから、子ども一人担ぐなんて余裕だ。」
背中のリアスはすやすや眠っている。こうしていると本当にかわいらしいのに。名乗り出てくれたシモンに、リアスを起こさないように渡した。
「こうやって子どもを背負っていると、弟のことを思い出すな。小さいときはにいさま、にいさまって慕ってくれてたのに。母さんが亡くなったころから距離ができて、今じゃ、バカ兄貴って呼ばれているんだぜ。」
帰り道では、そのままシモンと家族の話をした。シモンはリューブラント家の長男だが、弟の方が魔法や騎士としてのセンスがある。最近本気でリューブラント侯爵は家督を弟に継がせようとしているのだという。
「うちは強いものが偉いから仕方ないんだ。でも、親父も弟も精霊を召喚できないから、もし俺が炎の精霊召喚を成功させたら、あいつらをぎゃふんと言わせることができる。だから俺は絶対に精霊召喚を成功させる。」
「――そうだったのね。」
「でも、エディーはすごいよ。本属性じゃないのに、フェニクスを召喚するなんて、上位精霊だろう。」
「そうね。未来を恐れず立ち向かおうと思ったその気持ちがフェニクスと共鳴したのかもしれないわ。あなたも御父上や弟さんに強く立ち向かおうと思ったら、いつか召喚できるかもしれないわね。」
「そうだな……。」
「おーい!皆、モニカが躓いて足を擦りむいた。ちょっと手当てしてやってもよいか?」
私たちは川辺で少し休むことになった。シモンとの出会いは最悪だった。けれど、こうして少しずつお互いのことを知るうちに、シモンにも抱えている事情があるのだと分かってきた。根は悪い人間ではないのだろう、とも思う。そんな彼の姿を見て、私は未来を視てみたくなった。
「そうだシモン、ちょっといい?私占い得意なの。一瞬で終わるから、こっちを向いて。」
「え?」
神眼を開く。――ここはどこだろう?戦場?騎士服を着たシモンが、血の付いた黒い大きめの犬を抱きかかえて座り込んでいる。あの犬は――ガラム、冥界の番犬。上位精霊だが、怪我をしている。シモンもぐったりしているが、ガラムに治癒魔法を使った。そして魔法をかけ終わると、シモンは倒れた。少し元気になったガラムが倒れたシモンに寄り添って、しばらくその顔を覗き込んでいた。シモンの目は虚ろで虫の息だ。やがてガラムはその首筋を咬んだ。シモンとガラムの魔力が融合していく。
ここで"夢"から醒めた。あれはおそらく精霊契約の一種。だがガラムのような無属性の精霊が人間と契約するなんて聞いたことがない。
「今、エディーの眼が光ったような?」
「ふふ、それは秘密よ。あなたは粗削りだけど、筋は悪くないと思う。だからいつか精霊契約できるわよ。」
「そっか!ありがとう。俺頑張るよ。」




