7. 洞窟
屋敷に戻ると、シモンとスヴェンの双子たちはもう寝たようで、リアスだけが居間で起きていた。
「……遅い。無事でよかった。心配した。」
リアスは、ぱっとこちらに駆け寄ると、抱きついてきた。少し眠そうな顔をしていて、本物の子どもみたいでかわいい。前に小さな体だと、大人の時よりも睡眠時間も長くなると言っていた。無理して起きてくれていたのか。
「トロール如きにやられるほど、やわじゃないですよ。そういえば、リアス。新しい遺跡を見つけたんです。トロールがねぐらにしていた洞窟に壁画があって、明日行ってみましょう。」
「……。」
私の帰還に安心したのか、立ったままリアスは眠ってしまった。私は彼を抱き抱えると、寝室まで運んだ。
翌朝は、スヴェンたちは、早朝から西の森の魔獣調査に出かけた。私はリアスに改めて、洞窟のことを報告した。
「遺跡ねえ。でも壁画と祭壇以外に何もないんだろう?」
「ええ、トロールの魔力以外、魔力残滓もありませんでした。でも歴史的に貴重な発見ですよ。神の森ですし。多分。」
「そうだな……。エーヴェルトの墓所は少し距離があるし、案内なしで行くのは難しい。先にその洞窟を調べるか。」
「ありがとう!リアス。」
私たちは、馬に跨り、クノプの集落に向かった。集落までの道は一本道だ。
「昨日はありがとうございました!」
集落に着くと、私のことをスヴェンに聞いたのか住民たちが駆け寄ってきた。
「いえ、当然のことをしたまでですよ。」
「それにしても、ここは神の森だというのに、魔獣が出るなんて。」
「普段は魔獣が出ないそうですね。」
「ええ。かの昔、"神の子"が滅ぼされそうになった時も、この森に魔獣が溢れたと聞きます。しかし、神の子とその子孫がこの国を治めるようになってからは、平和そのものでした。」
「勇者・イリスと賢者・エーヴェルトですね。」
「歴史書ではそうなっていますが、この集落に伝わっている話では、賢者様は女性です。勇者と子を成し、それが現王家につながる、と。」
「なるほど。」
これは、歴史書によくある"諸説ある"っていう奴かしら?それにしても賢者が女性という話は初めて聞いた。しかも勇者と結婚したとは。
「あの森に魔獣が出るなんて。もしかしたら、神の子であられる現王家に何かあったのではないでしょうか?ああ神よ、我らを救いたまえ。」
まさしくイリスの末裔にあたるリアスは、終始呆れた顔をしてこの話を聞いていた。
「――本当に色々なことを言う奴らがいるな。下らん、行くぞ。」
リアスが吐き捨てるように言った。
「ちょっと待ってよ、リアス。」
私たちは、昨日つけた魔力残滓を追って、洞窟に向かった。洞穴の前には、昨日倒したトロールの死骸が転がっていた。
「ここよ!」
「……遺跡っていうより、洞穴だな。」
「誰が何と言おうと、遺跡よ!グロブス・イグニス!――火の玉。」
早速内部に入る。昨日の壁画を見つけ、リアスに見せた。
「ほら、これこれ!この丸いのなんでしょうね?」
「――死の太陽じゃないか。」
「古代文明を滅ぼしたという、あの?」
「ああ。」
壁画を手際よく調査ノートに写していく。他の絵とは少し異質の花畑の絵が少し気になった。
「そして、真ん中には祭壇、と。」
リアスの眼が一瞬、金色に輝いた。
「――本当にここ、何もないな。戻るぞ。」
「歴史のロマンが分からない人ね。」
私たちは、そのままスヴェンの屋敷に戻った。




