6. トロール
足の速いスヴェンについて行くのは大変だったが、しばらく森の中を走るとスヴェンが止まった。
「――言われた場所はこの辺のはずだ。この洞窟が奴らの巣だろうな。」
全身の感覚を研ぎ澄まして、魔力の残滓を追う。遠くないところにいる。そう思った瞬間だった。ごおおおと轟音が後ろからして、大木が飛んできた。
「これは、随分なご挨拶だな。」
振り返ると大小さまざまなトロールが十体ほどいた。小さいのは子どもだろうか?
「おそらく別の森から群れで越してきたのだろう。全員まとめてやっつけるしかない。」
「はい。」
「ベスティア・フルミニス――来たれ雷獣。」
「アルクス・テラエ!――土の要塞。」
私たちを守るように土の要塞が立ち上がる。雷獣がまずは一番小さいトロールにかぶりついた。電撃がトロールに走る。耳をつんざくような絶叫と共にその場にトロールが倒れた。
すると、隣にいた大きなトロールがこちらに向かって突進してきた。先程のトロールの母親か?知能が低いトロールにも、あの雷獣を使役しているのが、スヴェンだと分かるらしい。うむ、どうしたものか。ここは森の中だ。大幅に大気の温度を下げて樹木を枯らしてはいけないし、炎系の魔法は山火事になる可能性がある。闘い方を考えないといけない。
「グラディウス・グラキアーリス――氷の刃!」
空から降ってきた氷の刃が、砂の城を登ろうとする母親のトロールを串刺しにした。トロールが地響きのような唸り声を上げて倒れた。
「よし、いいぞ。戦闘狂令嬢。」
他のトロールたちも、木を引っこ抜いて投げたり、岩を投げてくる。
「サジッタ・フルミニス――雷の矢!」
「フリゲ!――凍れ!」
私たちは、魔法の展開範囲に気を付けながら、トロールの群れを一体ずつ倒していった。
「よし、これで全部か。一応この中も見ていくか。」
スヴェンが洞窟を指さした。
「そうですね。一体でも残っていると厄介ですから。」
「グロブス・イグニス!――火の玉。」
小さな火の玉を宙に浮かべて、洞窟に入っていく。中を進んでいくと、洞窟にいくつか手彫りの絵が描いてあることに気づいた。奥には祭壇の跡のようなものも見える。
「ここにはトロールはいなそうだな。」
スヴェンは絵には興味無さそうで、そのまま引き返そうとした。
「これ、遺跡じゃないですか?ここに壁画があります。これ何の絵だろう?」
大きな太陽と、逃げ惑う民衆?日程には余裕があるし、日を改めて、日中調査に来てみるか。
「ん?下手くそな絵だな。さっきのトロール共が描いたんじゃないか。」
「いや、これは古い時代のものだと思います。今回の調査対象に加えます。」
「これが遺跡ねえ~。」
スヴェンは訝しげに洞窟を見渡した。最奥までトロールがいないことを確認して、私たちは洞窟を後にした。




