3. 手合わせ
「戦闘狂令嬢、早速だが手合わせをお願いしても?」
「ええ、いいわよ。スヴェン。私、手加減しないから。」
「……おい、遺跡はいいのか。」
リアスが小さな声でツッコミを入れたが、聞こえないふりをした。敵に背は見せられない。荷物を置いて一息つくと、早速修練場に連れて行かれた。さすが脳筋辺境伯。個人の所有物とは思えないほど、魔法の訓練設備が充実している。
「あれから、トレーニングはしているか?」
「ええ。スクワットに腕立て伏せも毎日欠かさずやっているわ。」
「滞在期間中は、自由にここの設備を使っていいぞ。」
「ありがとうございます!」
今日の模擬試合の審判はシモンが行う。魔法大会で付けたのと同じ防護のペンダントを身に付けた。リアスは結界の外側で、スヴェンの双子に挟まれて、眉間にしわを寄せて、こちらを見ていた。
「両者、用意はいいか。これより試合を開始する。では、はじめ!」
「アエリス・キルキトゥス――雷撃の網。」
「ベスティア・フルミニス――来たれ雷獣。」
「スルゲ・ゴーレム!――目覚めよ、ゴーレム!」
今回も先手を取られた。決勝戦でも感じたが、スヴェンは私より魔法を展開するのが圧倒的に早い。雷撃の網は、戦場に無数の導線を張り巡らせて、敵がかかると電撃を食らわす罠だ。
「では私も精霊召喚から、ドラコ・グラキアーリス!!――来たれ氷龍!」
「やっぱり本命はそっちか。あんたは氷が本属性だと思ったんだよ。」
氷龍は氷属性最強の精霊だ。本来、最強精霊が召喚できたら、騒ぎになってもいい話なのだが、フィーラでは、私が魔力が平凡なマティアス殿下の婚約者だったため、この事実が皇宮によって伏せられた。殿下が精霊召喚を成功させていないのに、婚約者の私が最強精霊を召喚させていては皇子のメンツが保てないと高官にも苦笑いされた。
氷龍が息をするだけで、場の温度が下がっていく。
「アラエ・ヴェントルム――風の翼。」
私はいつも通り無詠唱で隠遁魔法を使い、身を隠す。肌で導線が発するわずかな魔力を感じて、電撃を避けていく。
「目くらましで姿を隠しても、お前が匂いでどこにいるかは分かる。」
隠遁魔法とは言えど、魔力の全てを隠すことはできない。スヴェンが言う"匂い"で場所が分かるのは想定済みだ。導線を交わしつつ、スヴェンが放つ雷撃も交わしていく。その間も氷龍は雷獣の相手をしながら、周囲を凍らせていく。遂に場が氷点下になった。スヴェンに召喚されたゴーレムも凍り始め、動きが緩慢になっている。氷点下では氷魔法の威力は何倍にも増す。環境整備は万全だ。
「ではそろそろ、本気を出させて頂きます。グラディウス・グラキアーリス――氷の刃!」
無数の氷の大剣が天から降ってくる。間髪入れずにスヴェンが叫ぶ。
「ああ、待ってました。ギガス・テッラエ!――現れよ、大地の巨人!」
スヴェンと雷獣を守るように土の巨人が立ち塞がった。でも凍り始めた地面からの土魔法の展開は、先ほどより格段に遅くになっている。スヴェンもそのことに気づいたのか、雷撃で素早く展開する。
「トニトルス・レックス――雷帝の轟!」
雷魔法の大技だ。立ち込めた黒い雲から、縦横無尽に不規則な雷撃が発せられる。何発かの雷撃を受けて、氷龍が唸った。氷龍のダメージは術者のダメージになり、魔力がそがれる。それに雷撃の網と違って、一発でも生身に喰らえば、それだけで致命傷になりうる衝撃だ。
「サジッタ・フルミニス――雷の矢!」
広範囲の大技に合わせて、ピンポイントに私を狙う雷撃もかましてくる。攻撃は最大の防御という訳か。さすがスヴェンだ。でも、氷点下のこの状況、覇者は私だ。
「グラディウス・グラキアーリス――氷の刃!」
「ランケア・ゲリダ!!!――氷の槍!」
氷の刃が空から、氷の槍が横から辺境伯を狙う。土の防壁はもう間に合わない。防護のペンダントが赤く閃光を放ち、弾けとんだ。勝負あった。




