4. 入学式
フィーラ帝都貴族学院の入学式当日は、侯爵家のタウンハウスから兄にエスコートしてもらった。真新しい制服に身を包み、学院の玄関に降り立つと、秋風が吹き抜け、銀糸のような髪が宙を舞った。その煌めきに、視線という視線が一斉に吸い寄せられた。銀髪で長身の兄に、"ユングリングの人形"と評される私。うちの家系はどこに行っても目立ってしまう。
「きゃあ!ユングリング侯爵家のアードルフ様とエディット様よ!」
「ユングリングの銀髪、すてき~!」
「噂には聞いていたけど、本当にお人形さんみたい……。」
今まで、私が出席する社交の場は皇宮の指示に従って公式なものだけにしていた。だから、自分が現れるだけで、こんなに騒がれるなんて、ちょっと驚きで、背筋に冷や汗が走った。
「兄上、少し落ち着きませんことね。」
「ああ、騒いでる連中は下級貴族だから、ある意味、素直なんだよ。エディットもすぐ慣れるさ。」
講堂に向かって歩いていくと、久しぶりにお会いする"あの方"とすれ違った。
「エディット!」
向こうから呼び止められるとは。失礼のないようにカーテシーで挨拶する。
「殿下、お久しぶりでございます。私も無事、学院に入学できることになりました。」
「最近、手紙が返せていなくてすまない。アードルフ殿、ここからはエスコートを代わるよ。」
マティアス殿下の優しそうな青い瞳が、こちらに微笑んだ。
「いいえ、結構です。本日の妹のエスコートは私が務めさせていただきます。行くぞ、エディット。」
「あ、兄上?」
そう言うと、兄は私の手を取って、少し強引に講堂へ歩き出した。
「良かったのですが?殿下のお申し出を断ったりして。」
「入学式当日から、変な噂が立てられたら、たまらないからね。幸い俺はまだ婚約者がいないし、大好きな妹をエスコートしておかしく思う奴なんて誰もいないさ。」
「そういうものならよいのですが……。」
入学式では、新入生代表として挨拶をした。てっきり、私が皇子の婚約者だから選ばれたのかと思ったら、純粋に入学試験の成績で選ばれたらしい。学院長からは、魔法の実技試験が特に素晴らしい出来だったとお褒めの言葉もいただいた。
クラスは成績順で、ステラ、ソル、ルーナに分けられている。私は最上位クラスのステラ組。見渡すと、公爵家や侯爵家の上位貴族の令息令嬢ばかりだ。そしてその中に――あの青年がいた。
――"夢"で私に「――愛しているよ、エディット。」と告げた黒髪赤眼の青年。
「トヴォー王国から留学してきました。ベックマン子爵のリアスと申します。よろしくお願いします。」
あの"夢"を視て、この国で付き合いのある貴族にあのような青年はいないと思ったけど、まさかトヴォー王国の留学生だったとは。子爵ということは、もう家督を継いでいるのか。こちらに留学してくるのだから、きっと優秀なのだろう。思わず彼を目で追うと、カーテンの隙間から一筋の光が差し込み、彼の赤い眼が一瞬、金色に輝いた。




