15. 湖
別荘での生活はゆったりしたものだ。こんなに寝坊したのは久しぶりかもしれない。今日は湖の見える部屋で、遅めの朝食を取った。シェフが完璧な半熟に仕上げたスクランブルエッグはふわとろで、口の中に入れるとほろり崩れた。
「わあ、おいしい。」
トーストに野イチゴのジャムを載せて食べるのもおいしい。のんびりと湖畔の水面を見つめて朝食を食べていると、先に起きていた兄が部屋に入ってきた。
「エディット!今日は、客人が来るぞ。」
「お客様?」
「ああ。エディットも知っている人だ。」
嬉しそうに兄がはにかむ。使用人がリナが向かいに腰掛けた兄にも紅茶を出した。それを一口飲んで、兄が再び口を開いた。
「客人が来たら、鷹狩をしようと思うが、エディットも一緒にどうだい?」
「あら、久しぶりですわね。ぜひお供したいですわ。」
「そうか、久しぶりか。そういえば昨年は妃教育で本邸に缶詰されていたもんな。」
学院入学前は、皇宮から派遣された家庭教師の授業を毎日受けていた。だからたまに皇宮に登城する以外は本邸に籠っていた。――その間、殿下は火遊びしていたわけだが。
「エディット用に小さめのハヤブサも鷹匠に用意させている。」
そんな話をしていると、別邸の管理を任せているカールが部屋に入ってきた。
「お客様のヴァーサ伯爵令嬢のシーラ様がご到着されました。」
シーラ様!優しくて思慮深くて大好きな先輩の一人だ。
「ヴァーサ領はうちの隣だろう?実は別荘同士は意外と近いんだ。シーラ嬢も別荘に滞在しているっていうから、どうせならって思って招待したんだ。カール、応接間にお通して。」
朝食を食べ終え、身なりを整えて、応接間に向かう。兄が少し緊張しているのが伝わってきた。
「アードルフ様、エディット様、お久しぶりです。素敵な別荘ですわね。」
「だろう。湖と森が美しくて、俺も気に入っているんだ。これから鷹狩をしようと思うんだけど、鷹狩の経験は?」
「いえ、初めてですわ。」
「なら、今日はシーラ嬢は見ているといい。」
外に出ると、冬の澄んだ空気が湖畔を包んでいた。白く霞む吐息の向こうに、山頂部に積雪の帽子をかぶった山並みが見える。別荘の庭から続く緩やかな丘は一面の枯草に覆われ、鷹狩には絶好の場所だった。
革の手袋をはめた私の腕に、若いハヤブサが止まっている。黄金色の瞳がきらりと光り、羽根をわずかに震わせた。鷹匠のデニスが静かに囁く。
「エディット様、獲物を見つけましたら、手を高く掲げて合図を。」
「ええ、分かりましたわ。」
兄は隣で堂々と鷹を構え、すでに狩りに集中している。シーラ様はそんな兄の後姿を見つめていた。
やがて草むらから野兎が二匹、はねるように飛び出す。兄の鷹が翼を広げて空へ舞い上がった。風を切る音が鋭く耳を打ち、陽光を背にした鷹の影が地上に落ちた。
「今です、エディット様!」
デニスの声にうながされ、私は腕を振り上げた。待ちかねたように私のハヤブサも空へと躍り出す。翼が大気をつかむ力強さに思わず心臓が高鳴った。
二羽は風を切り裂いて獲物へと一直線に突き進む。兎は必死に逃げるが、兄の鷹が先に急降下し、一匹目の兎を押さえ込んだ。その直後、私のハヤブサも二匹目の兎を追い打ちをかけるように追い込み、爪を立てる。狩りは見事に成功した。
「お見事です!」
と、鷹匠が叫ぶ。シーラ様も、ぱっと目を輝かせて私たちに拍手を送った。
「久しぶりだが、なかなかやるじゃないか、エディット。」
「いいえ、上手なのはこの子ですわ!」
腕に戻ってきたハヤブサを撫でながら、私は思わず微笑んだ。




