花火大会の約束
夏休み。
部活をやっていない生徒にとっては30日近くもある長期休暇で、まさにバカンス気分だろう。
だが、部活をやっている身としては、むしろ忙しくなる。
夏休み中の部活は、平日と土曜日の午前中、そして大会。
でも午後は比較的暇なので、友達と遊んだり、ヤマトと過ごす時間もある。
そんなある日の夏祭り——
「先輩、今日駅前でお祭りあるんで、部活終わったら一緒に行きましょ!」
「ごめん、今日友達と行く約束しちゃってて…」
「……そうですか」
ヤマトは肩を落とし、練習中もずっと元気がなかった。
部活が終わる頃、俺は声をかけた。
「次の土曜日の花火大会には一緒に行こうよ。もともとそっちに誘おうとしてたし。」
さっきまでふてくされていた顔が、急にぱっと明るくなって、
「やった!行きます!甚兵衛着ていきたいです!」
「じゃあ明日、一緒に見に行くか。」
———
次の日。部活終わりに、約束通り駅前で甚兵衛を買いに行った。
「昨日は楽しかったですか?」
「うん、射的とかお化け屋敷とか。」
「友達って…男の人?女の人?」
「両方。2対2で、ダブルデート。」
「え?先輩…彼女いるんですか…?」
(しまった…言わないつもりだったのに)
「いや…昨日、流れで告白されて。付き合うことになった。」
「……かわいい?」
「うん。」
「よかったですね!」
意外にも落ち込む様子はなかったが、その笑顔はどこか空元気に見えた。
紺と黒の色違いの甚兵衛を買って、その日は帰った。
———
次の日の朝。
【風邪ひきました。休みます】とヤマトからメール。
「お見舞い行くよ」と送ったが、「うつしたくないので」と断られた。
その日は午後から彼女と会う約束があり、結局そのまま遊びに出かけた。
夜になって、心配でメールを送る。
【体調どう?】
【大丈夫です】
返ってきたメールは、いつもよりそっけなかった。
———
その次の日、ヤマトは何の連絡もなく部活を休んだ。
部活前にメールを送ったが、部活が終わっても返信はない。
この日も彼女と遊ぶ約束があったので心配しつつも出かけた。
夜になっても、返信は来なかった。
———
金曜日になっても、ヤマトは部活に来なかった。
「ヤマト、どうしたんだ?」と部長が心配し、
「先輩、ヤマトと喧嘩しました?」とジュンヤが言ってくる。
「してないよ」と否定しながらも、気が気じゃなかった。
「部長、明日、俺も休ませてもらっていいですか?」
「いいが…用事か?」
「はい、ヤマトも休ませます。」
部長に事情を話し、部活終わりにヤマトの家へ向かった。
———
ヤマトの家に着き、電話をかけたが出ない。
インターホンを押すと、お母さんが出てきた。
「あら、サトシくん。久しぶりね。ヤマトと遊ぶ約束?」
「いえ、最近部活に来ないので、どうしたのかなと思って。」
「あら、今週はお休みって聞いてたけど…」
「お邪魔していいですか?」
二階に上がり、ヤマトの部屋の扉をノックする。
「ヤマト、入るぞ。」
「来ないでください…帰って……」
「なんで?俺、何かした?」
「何もしてないです…だから帰って…」
「とりあえず開けるぞ。」
扉を開けると、カーテンを閉め切った薄暗い部屋。ヤマトは布団の中に潜り込んでいた。
ベッドの端に腰を掛け、布団をそっとめくると、ヤマトの顔が見えた。
髪を撫でながら「どうした?」と声をかけると、ヤマトはぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「先輩に彼女できたって知ったら、悲しくなって…。でも、せっかく買い物中だったから泣かないように我慢した。でも、一人になったら涙が止まらなくて…。先輩に大切な人ができたら、もう遊んでくれなくなるのかなって…怖くて、会う勇気なくて…」
ヤマトの腕を引いて、上半身だけ起こさせ、目を見て言う。
「馬鹿だな、お前は…。そんなことなるわけないだろ。俺を信用しろよ。」
ヤマトはしばらく俺の肩で泣いて、そのまま眠ってしまった。
(まったく、こいつは…)
———
「ごめん、別れよう」
ヤマトが寝ている間に、彼女にメールを送った。
すぐさま電話がかかってきて、「なんで!?」と怒られたが、
「ごめん」と平謝りし、なんとか落ち着かせた。
———
「先輩? なんですか、今の電話」
「…起きてたのか。なんでもないよ。なんか彼女に振られちゃった。」
ヤマトは不思議そうな顔をしていた。
「今日、うちに泊まりに来いよ。明日の部活は休みもらったし、花火大会だしな。」
ヤマトのお母さんに許可をもらい、俺の家へ。
部屋に入ると、ヤマトは布団に横たわり、
「先輩の匂いする」
「変態かよ!」
———
テレビを見たり、スーパーに晩ご飯を買いに行ったり、ゲームをしたり。
あっという間に時間は過ぎて、俺のほうが先に眠ってしまった。
———
夜中。ふと目を覚ますと、ヤマトが俺の股間に手を当ててきていた。
ふざけてるんだと思い、ヤマトの下を軽く触り返すと、ヤマトは驚いて手を引っ込めた。
「ヤマト、起きてる?」
「……起きてますよ。」
「寝れないの?」
「花火大会楽しみで、なかなか寝られないです。…抱きついて寝ていいですか?」
「バカか…暑くて逆に寝られないだろ。」
「ですね!おやすみなさーい。」
———
今日は、やっとヤマトの元気が戻ってよかった。
彼女には…悪いことをしたけど。




