ハッピーハロウィン
『トリックオアトリート!先輩!』
『……は?』
『「は?」ってなんですか!?冷たいですね。
ハロウィンですよ、ハロウィン!』
『いや、ハロウィンは明日だし。
てか、お前ハロウィンってどんな日か知ってんの?』
『えっ?』
『もともとは古代ケルト人がさ、10月31日の夜に悪霊がやってくるって信じてて、それを追い払うために松明を焚いてたんだよ。
で、「トリックオアトリート」ってのはさ、お菓子を渡して霊を鎮めて、神様にお供えする意味が――』
『うるさーーーーーい!!!!!』
『なっ……』
『ハロウィンが明日なのは知ってます!
起源とかどうでもいいんです!
私はただ!先輩と仮装して楽しみたいだけ!!』
『あー……仮装って言えば、なんで仮装するのかっていうと――わっ、やめろっ』
カズヤが俺の胸ぐらをつかんで、思いっきり揺らしてくる。
『そーんなのは、どーでもいいんです!
明日はハロウィンなんですから、部活終わったら仮装グッズ買いに行きますよ!
で、駅前のイベント行きましょ!』
『わかったよ……お前、必死かよ』
部活が終わって、駅前のディスカウントストアに寄って仮装グッズを見て回る。
「先輩~」と呼ばれて振り向くと、カズヤが黒いヒゲの飾りをつけて立っていた。
『お前、それに決定な。似合ってるぞ』
『やですよ!こんなの絶対イヤです!』
店内にはミイラ男、ヴァンパイア、馬の被り物、アフロ頭など、変わった衣装がたくさん並んでいる。
結局、お互いに相手の衣装を選ぶことにした。
『お前、ちゃんと決めろよ。変なの選んだら怒るからな』
『大丈夫ですよ~』
カズヤが俺に選んだのはヴァンパイアの衣装。
俺がカズヤに選んだのは、猫耳と尻尾がついた人型猫の衣装だった。
『先輩、ふざけましたね?』
『いやいや、本気だよ。本気で似合うと思って』
『……似合いますかね? なら、まぁ……』
少し照れて頭をかくカズヤ。
(ちょろい……本当はちょっとふざけたけど)
そんな本音は隠して、さっさと会計を済ませた。
『明日が楽しみです~。僕の家に衣装置いとくんで、先輩、明日はうちで着替えましょう』
⸻
そしてハロウィン当日。
部活終わり――
『先輩!早く帰りましょ!着替えないと!』
『そんな急がなくても、ハロウィンは逃げないって』
カズヤの家で仮装に着替える。
『先輩、ヴァンパイア似合いますね』
そう言ってカズヤが笑う。
カズヤの猫衣装は、正直かなり似合っていた。
白い猫耳、白い尻尾、そしてふわふわの猫毛っぽい服。
俺のヴァンパイアより完成度高いんじゃないか?
『お前、自分の格好見たか?お前だって十分面白いぞ』
カズヤが鏡を見て吹き出す。
『先輩!猫のヒゲ描いてください!』
水性ペンでカズヤの頬に線を引くため、顔に手を添える。
『先輩……近いです』
『変なこと言うな!』
照れ隠しに頭を小突いた。
⸻
駅前には、俺たちと同じように仮装した人たちがたくさんいた。
『でさ、カズヤ。来たのはいいけど、イベントってあるの?』
『何もないですよ。見せびらかすだけです』
『お前……まぁいいや。せっかくだし、写真撮ろうぜ』
パシャ。
二人とも、いい笑顔だった。
そのあとは駅前を歩きながら、いろんな仮装をした人たちを眺めた。
『先輩?つまんないですか?』
『いや、そんなことないよ。
いろんな人がいるなーって思ってさ』
『いろんな人?まぁ、たしかに仮装はみんな個性的ですね』
『見た目の個性は誰も気にしないのに、性格の個性は煙たがられるんだなって思って』
『……ちょっと、よくわかんないです』
そう言って笑うカズヤにつられて、俺もついニヤけてしまう。
仮装のままカフェに入って、いつもと違う空気の中で過ごす時間は、すごく新鮮だった。
『先輩、来年も仮装します?』
『するよ。でもヴァンパイアはやめるわ。
同じ格好の奴、多すぎてなんか嫌だった』




