修学旅行のはなし。
【先輩、気をつけて行ってらっしゃい!!
楽しんできてね!!】
修学旅行当日の朝、ヤマトからさっそくメッセージが届いていた。
【すぐ帰ってくるから】
初日は奈良。鹿公園や東大寺を見に行ったけど、正直お寺にはあまり興味がなくて、そこまで面白いとは思えなかった。
鹿せんべいを買うと、鹿がすぐに寄ってきて口元に迫ってくる。そっとせんべいを差し出すと、パクっと食べて、すぐにまた催促してきた。
(ヤマトも一緒だったら、もっと楽しかったのにな……)
そんなふうに考えている自分が、結局はあいつと同じ思考回路なんだなと、ふと気づく。
思わず鹿の写真をヤマトに送った。
【かわいいですね!】
すぐに返信が返ってきた。
【授業中じゃないの、今?】
【授業なんて……知りませんよw】
【真面目に受けろ!】
どこにいても、結局ヤマトのことを考えてしまう。
寂しいのは、案外俺のほうかもしれない。
観光が終わり、バスで宿へ向かう。
5人部屋で、班ごとの大部屋。
風呂に入って、みんなで外を歩いたり、トランプしたりして夜遅くまで遊び、次の日はしっかり寝不足に。
2日目は京都、3日目は大阪、4日目は○SJ――たくさんの思い出ができた。
どこに行ってもお土産屋にはたくさんの品が並んでいて、「ヤマトが喜びそうだな」と思うものがいくつもあった。
八つ橋のほかに、大仏のキーホルダーも買って包装してもらった。
(あいつ、喜んでくれるかな)
修学旅行最後の夜、ヤマトから電話がかかってきた。
『先輩! 明日帰ってくるんですよね!? 修学旅行、楽しかったですか? やっと会えるの楽しみです!』
『お前、やっとって言っても、たったの5日だろ』
正直に言えば、俺も会えるのが嬉しい。
『お土産楽しみにしてますね!』
『八つ橋、ちゃんと買っておいたよ』
『ありがとうございます!
修学旅行の話、聞かせてくださいね!』
本当に楽しみにしているのだろう。声のテンションが、いつも以上に高かった。
『じゃあ、明日土曜だし、帰ったら家に行くよ。おやすみ』
『先輩! おやすみなさい!』
あいつは、俺の気持ちを知っている。
俺も、あいつの気持ちはわかっている。
でも、それを言葉にすることは、まだない。
たぶん、今が一番いい距離感なのだと思う。
言葉にしてしまえば、何かが壊れてしまいそうで。
—
修学旅行が終わり、駅に到着。
荷物はすべて送ったけれど、ヤマトのお土産だけは持って帰ってきた。
家に帰って親に顔を見せたあと、ヤマトの家へ向かう。
チャイムを鳴らすと、ヤマトが出てきた。
『先輩!』
いきなりハグしてきて――
『おまえはアメリカ人か!』
とツッコミを入れてみるが、まるで気にせず触ってくる。
『あらあら、仲がいいのね』
『お久しぶりです! お邪魔します』
ヤマトのお母さんが出てきたので、八つ橋を渡す。
『あら、ありがとう!』
ヤマトの部屋で一息つくと、当たり前のように俺の隣に座ってくる。
『ヤマト、これ』
そう言って、キーホルダーのお土産を渡した。
『ありがとうございます! 開けていいですか?
……奈良の大仏キーホルダー……』
『あれ、微妙だった?』
『え、いや、そんなことないですよ。嬉しいです。ありがとうございます……』
ヤマトの目が泳いでいる。きっと嘘をついている。
『微妙なら、言ってほしいんだけど』
『そ、そんなことより、修学旅行の話聞かせてください!』
そっとキーホルダーをポケットにしまいながら、話題をそらしてくる。
『そんなことって……』
修学旅行先で撮った写真を見せながら、いろんな話をした。
『ヤマトと行きたかったなぁ……』
『先輩、修学旅行前の僕と同じこと言ってますよ』
そんな会話をしていると、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
『そういえば、どこ行きたいか決まった?』
『はい! 遊園地に行きたいです!』
『遊園地かぁ~ 冬休みだな』
ヤマトとの初めての旅行。
今からとても楽しみだ。




