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『好きになったらいけない恋』高校二年、春。ようやくできた後輩は面倒で不器用で、だけど目が離せない。  作者: 湊 俊介


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12/17

夏の終わりと寂しさの始まり

暑さはまだまだ続いているけれど、気づけば夏休みも残り2日。


今日は弓道部の1・2年生みんなで遊ぶことになっていて、川辺で花火をする予定だ。


昼ごはんを食べて、ヤマトの家へ向かう。


「早いですね。今ちょうどご飯食べてました。とりあえず中入ってください。」


ヤマトの向かいに座り、彼がご飯を食べている様子をじっと見てしまう。


「…先輩、そんなに見られると食べづらいですよ。」


「あっ、ごめん。」


食べ終えたヤマトが、俺の隣に座ってくる。


「お前、そんなに俺の近くにいたいのか?」


「先輩の隣、落ち着くんですよ。いい匂いするし。」


ヤマトの頬に米粒がついていたので、指で取ってそのまま食べる。


(こいつが前に俺にやってきたから、つい真似してしまった)


ヤマトはニヤッと笑って席を立ち、飲み物を持ってきてくれた。


2人でテレビを見ながら飲んでいると、ヤマトが俺の右手を取り、自分の手のひらと合わせてきた。


「先輩、手大きいですね。」


ヤマトの手は俺より小さくて、きれいで、すべすべしていた。

そのまま手を握りながら、視線をテレビに戻す。


「夏休みももうすぐ終わりですね。先輩は何が一番楽しかったですか?」


「んー、やっぱ海に行ったことかな。ヤマトは?」


「僕は…先輩との思い出、全部楽しかったんで、一番は選べません。」


「なんだそれ、嬉しいけどずるいな。」


「そろそろ行くか」と集合場所の川に向かうと、すでにみんな集まっていた。


「てかさ、最近ずっとヤマトと一緒にいるのに、誰も突っ込んでくれなくなったよな。」


軽く振ってみると、ジュンヤが笑って答える。


「当たり前すぎて、もう何も感じないですよ。

2人の間には入り込めませんし。」


「…そっか。」


打ち上げ花火、手持ち花火、ロケット花火…たくさんの花火が用意されていた。


ロケット花火を投げたり、手持ち花火を振り回したり、みんなテンションが上がってはしゃぎはじめる。

ヤマトも楽しそうに花火を振り回している。


「先輩!」


声のした方を振り向くと、ヤマトがネズミ花火を投げてきた。

さっと避けて、「おい」と軽く頭を小突くと、ヤマトはいたずらっぽく笑った。


俺は少し疲れて、地面に座りながら、ヤマトが他のみんなと楽しそうに笑っている姿を見つめる。


(…俺以外とも、こんなふうに笑えるようになったんだな)


そんなことを思いながら、少し嬉しくて、少し寂しくなる。


「せんぱーい! 一緒に水切りしましょ!」


ヤマトが笑顔で手を振る。


「どっちが多く跳ねるか、勝負です!」


「いや、暗くて見えなくね?」


「いいから!」


ヤマトが石を構えて投げる。――ポチャン。


「0回だな。俺の見てろよ。」


――パンッ。ポチャン。


「1回ですね。」


「でも俺の勝ちだな。」


悔しがるヤマトは、そこからしばらく夢中で石を投げ続けていた。


残っていた線香花火をみんなで一斉に持ち、火をつける。


ヤマトは線香花火の火を見つめながら、少し寂しそうな表情を浮かべた。


「今年の夏も、もう終わっちゃいますね…。

でも、すごく楽しかったです。先輩がいたから。」


「来年の夏も一緒に過ごすって、約束しただろ。

俺も、ヤマトがいたから楽しかったよ。」


ヤマトの線香花火の火が、ぽつんと落ちた。


後片付けをして解散した帰り道。


「先輩…話したいことがあるんですけど。」


「ん?どうした?」


ヤマトが少し言いづらそうに口を開く。


「明日、先輩の家に泊まりに行ってもいいですか?

話したいことがあって…。明日、ちゃんと話します。」


「いいけど…なんだよ、今さら改まって。」


「…明日話します。」


それ以上何も言わず、ヤマトは静かに歩き出す。

虫の声が響く夏の夜道を、俺たちは並んでゆっくり歩いていった。

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