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『好きになったらいけない恋』高校二年、春。ようやくできた後輩は面倒で不器用で、だけど目が離せない。  作者: 湊 俊介


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11/17

これは恋?

翌朝


蝉の声と蒸し暑さで目が覚めた。


隣では、ヤマトが俺に腕を回して抱きついて寝ている。


そっとその腕をどかすと、ヤマトも目を覚ました。


「よくこんな暑いのにくっついてられるな」


そう言って寝ぼけ顔のヤマトの頬をつねると、なぜか笑顔を見せた。


午前6時。


一階に降りると、朝ごはんのいい匂いが漂ってきた。


「まあ、二人ともずいぶん早起きね」


ヤマトの母さんとおばあちゃんが台所で朝食の準備をしていて、おじいちゃんは居間で新聞を読んでいる。


(なんだか昭和の風景みたいだな……昭和、知らないけど)


「いただきます!」


炊き立てのご飯、昨日の残りの肉、卵焼き、味噌汁、漬物――完璧な朝食だ。


「ご飯、おかわりいいですか?」


「遠慮しないで、たくさんあるわよ」


「先輩、朝からよくそんなに食べられますね…」


「ヤマトもちゃんと食べなさい!」


賑やかな食卓で、お腹いっぱいになるまで食べた。



朝食後、さっそく水着に着替えた。

浮き輪や麦わら帽子、ビーチグッズを持って、ヤマトの母さんの車で出発。


目的地は車で10分ほどのところにある海水浴場だ。


「じゃあ、あとで迎えに来るから楽しんでね」


「はーい」


「ありがとうございました」


砂浜はそこそこにぎわっていた。


シートを広げて荷物を置くと、ヤマトが浮き輪を差し出してきた。


「先輩、膨らましてください!」


(ポンプ持ってきてないのかよ…)

そう思いつつ、素直に膨らまし始める。


途中で疲れて休んでいると、ヤマトが浮き輪を受け取りながらぽつり。


「間接キスですね……」


頬を少し赤らめながら言うので、思わず頭を軽くはたいた。


「やめなさい」



浮き輪が完成すると、すぐに浅瀬へ向かう。


「ヤマトー!」


後ろから飛びついて、水の中へ一緒に倒れ込む。


「やったな!」


ヤマトが水をかけてくる。


思いっきり遊んだあとは、シートに戻って身体を拭いた。


「お腹すきましたね」


「海の家、行ってみようか」


焼きそばやトウモロコシの匂いが漂ってくる。


「いい匂いですね~」


焼きそば2つと、かき氷2つを注文して席に座る。


「こうやって、誰かと楽しい夏を過ごせるなんて思ってませんでした。

いつもこの海には母と2人で来てて……つまらなくはないけど、友だちと来たいなって思ってました」


「そんなにしんみりすること言うなよ。来年も、その次も、また一緒に来ようぜ」


「先輩……」

泣きそうな顔になったヤマトは、どうにかこらえて


「約束ですよ! また来ましょうね!」と笑った。


「でも……再来年は卒業していないですよね」


「車の免許取って、俺の運転で連れてきてやる。

先のことばかり考えず、今の海を楽しもうぜ」


「……はい!」



遊びつくして、夕方。シートに並んで座り、夕日を眺める。


沈みかけたオレンジ色の光が、夏の終わりを告げているようだった。


「きれいですね……」


「ああ」


「もう暗くなっちゃいますね。お母さん呼びます」


「ヤマト? 夜は肝試しだぞ」


「えぇ~、怖いですよ~」

そう言いながらも、どこか楽しそうだった。



夜ごはんをお腹いっぱい食べ、お風呂に入った。


「いてて……日焼け止め、塗るんだったな」


ヤマトがニヤニヤしながら見てくる。


「どうした?」


「叩いたら痛いかなって思って」


「絶対やめろよ」


バチッ。


「痛ッッッ……!」


ヤマトに反撃して、しばらくもみ合いになった。


「つかれました……湯船入りましょう」


湯船につかると、日焼けした肌がじんじんとしみた。


「はぁ~」


「先輩、おっさんみたいですよ」


「どうせ俺はおっさんですよ」


「冗談ですって。かっこいいです」


調子に乗って決め顔を見せると、ツボに入ったらしく、ヤマトは大笑いしていた。



風呂上がり、外に出ようとすると、ヤマトが少し嫌そうな顔をする。


「怖いのか?」


「べ、別に怖くなんかないですよ」


コースは墓場までの往復。街灯のない田舎道は、想像以上に真っ暗だった。


「先輩こそ怖そうですよ。やめてもいいんですよ?」


「こ、怖いわけないだろ……」


内心びびりながらも、懐中電灯をつけて歩き出す。


ヤマトは俺の服の裾をつかんでついてくる。


(いやこれ、普通に怖いな……)


調子に乗って懐中電灯を消してダッシュしてみた。


追いかけてくるかと思ったが、気配がない。


慌てて戻ってライトをつけると、ヤマトがその場で膝を抱えて泣いていた。


「先輩のいじわる……やめてくださいよ。怖いんですから」


鼻水を垂らしながら泣いている姿に、申し訳なさでいっぱいになる。


「ご、ごめん……ちょっと驚かせようと」


近くのコンビニでアイスを買って謝ると、ヤマトはケロッと泣き止んで美味しそうに食べ始めた。


(単純なやつだな……)


帰り道、前方に人影が見えた。ライトも点けずに歩いている。


「こんばんは」と声をかけると、軽く会釈して通り過ぎた。


振り返ると、その人影はふわぁ~っと消えていた。


顔を見合わせた俺たちは、手をつないで一目散に家まで走った。


「どうしたの?そんなに慌てて」


「ゆ、幽霊……本物いました」


ヤマトはまた泣きそうな顔になる。


「それはこの辺の守り神、ご先祖様よ。みんなを見守ってくれてるの」


おばあちゃんの言葉に少し安心したけど、怖いものは怖い。



その夜も、2人で同じ布団に入り、手をつないで眠った。


翌朝――


「お世話になりました。すごく楽しかったです!」


「また来年も来てね。サトシ君なら大歓迎だよ」


「はい!」


車に乗り込み、ヤマトはぐっすり眠っていた。


「ん~、せんぱい……ゆうれいがぁ……」


寝言でうなされるヤマトの手をそっと握ると、安心したように表情が和らぎ、また眠りに落ちた。


「この子、まだまだ未熟だからよろしくね。

サトシ君のこと、大好きなのよ。付き合っちゃえばいいのに」


「えっ……ヤマトの、そういうこと知ってるんですか?」


「男の子が好きってこと?もちろん知ってるわよ。本人は隠してるつもりだけど、母親だもの」


(やっぱり、親ってすごいな……)


「サトシ君は知ってたの?」


「はい。ヤマトから直接聞きました」


「それなら、相当信頼されてるのね」


バックミラー越しに、ヤマトの母さんと目が合う。


「で、サトシ君は……そういう感じなの?」


「俺は……正直まだよくわかりません。

でも、ヤマトのことを傷つけたくはないです」


「そう。そこは2人の問題だから任せるわ。

でも、もし付き合うことになったら教えてね。ヤマト、絶対自分から言わなそうだから」


その言葉に笑って頷き、眠気に任せて少し眠った。


家に着くと、ヤマトはまだ寝ていた。

母さんにお礼を言って車を降りる。


部屋に戻り、ヤマトのことを考える。


(あいつ、本気で俺のこと好きなのかな?

先輩として?それとも恋愛対象として? 俺は、あいつのこと……)


答えはまだ出ない。


でも、眠って起きると、ヤマトからメールが届いていた。


【海、楽しかったですね!】


添付された写真には、海で撮った水着姿の俺とヤマトの2ショットが写っていた。


その写真を壁紙に設定し、

【また行こうな】

と返信した。


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