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『好きになったらいけない恋』高校二年、春。ようやくできた後輩は面倒で不器用で、だけど目が離せない。  作者: 湊 俊介


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10/17

大会終わり、そして海へ

夏休みはもっと遊べると思っていたが、部活でほとんど時間が取られ、なんだかんだで忙しい日々が続いていた。


今日は県大会のため、マイクロバスで1時間半ほどかけて移動。夜は宿に一泊する予定だ。


1年生たちは、会場準備や雑務に追われていて忙しそうだ。

そろそろ試技の時間が近づき、俺も会場へ向かう。


そんな中、雑務で手が離せないはずのヤマトが小走りでやってきた。


「先輩、頑張ってください!」


「おう、サボりか?」


「合間見つけて応援に来たんですよ!」


少し不満そうに口をとがらせている。


「ありがとな、頑張るよ」


笑って返すと、ヤマトも嬉しそうに笑った。

その顔を見て、緊張していた気持ちが少しだけ和らぎ、落ち着いて競技に挑むことができた。


結果は今までで一番良かったが、全国大会には届かなかった。

3年生の先輩たちはこの大会で引退。みんなでお礼を言って送り出した。


試合後、1年生たちは一日中走り回っていてヘトヘトだ。

自販機で飲み物を買って、ジュンヤとヤマトに渡す。


「ありがとうございます!」


(そういえば、この二人って仲いいんだな…)


「二人はクラスでも仲いいの?」


「まあ、普通に部活の話とかしますけどね。ヤマトは先輩の話ばっかしてますけど」


「んっ!」

ヤマトがジュンヤを肘で軽く突く。


(ちゃんとクラスでも馴染んでるんだな。ちょっと安心した)


夜は宿でゆっくり過ごすことになった。

布団が9人分敷かれた和室の大部屋。先生たちは別室で飲み会らしく、夜更かししても何も言われない。


ヤマトはちゃっかり俺の隣に布団を敷いていた。


深夜、みんなが寝静まった頃、ヤマトがそっと俺の布団に潜り込んできた。


「先輩、起きてます?」


耳元で囁かれたが、眠気に勝てず寝たふりをした。

すると、ヤマトが布団の中で俺の体を優しく撫でてくる。直接的なことはしてこないが、なぜか体が反応してしまい、慌てて寝返りを打って背を向けると、ヤマトはそのまま俺の背中に寄り添ってきた。


嫌な感じはしない。むしろ、どこか安心してしまい、そのまま眠りに落ちた。


朝、部長たちは早く起きていて「どんだけ仲いいんだよ」と茶化され、ヤマトを起こすと何事もなかったように「おはようございます」と挨拶してきた。


帰りのバスでも、ヤマトは当然のように俺にもたれて寝ていた。

もう部内でも、そういう姿を見ても誰も驚かなくなっている。


3年生の引退後、俺は副部長に任命された。

大会も一段落し、顧問の方針で勉強に専念する期間として、部活は1週間の休みに入った。


「先輩!明日から海に行きませんか?

 親戚の家が海の近くなんで、お墓参りも兼ねてなんですけど…」


「いいね。なんだかんだ忙しかったしな」


「やった!お母さんに言っときます!」


こうして、ヤマトと夏休みの終わりに2泊3日の海旅行に行くことになった。


翌日――


「よろしくお願いします」


「サトシ君が来てくれるって聞いて、ヤマトすごく楽しみにしてたのよ。毎年二人で行ってたから」


ヤマトは少し恥ずかしそうに照れている。

(そういえば、ヤマトのお父さんって見たことないな…)


長時間高速を走り、ようやく親戚の家に到着。

もともと民宿をやっていたというだけあって、大きな二階建ての木造建築。広い庭に、美味しい空気、蝉の声、潮の匂い――


「夏休み感満載で最高だな!」


ついテンションが上がる。


「満喫できますよ!」


優しそうな祖父母に挨拶を済ませたあと、ヤマトに手を引かれ、蝉の声が響く道を歩いていく。


たどり着いたのは墓地。ヤマトが水を汲みに行き、俺は墓石の前で手を合わせる。


「お父さん、なかなか来れなくてごめんね。

 いつも仲良くしてくれてる先輩と遊びに来たよ。優しくて頼りになるんだ」


――ヤマトのお父さんは、もうこの世にいないのだ。


親戚の家に戻り、二階の一室をヤマトと二人で使わせてもらう。


「お父さん、3年前に病気で亡くなっちゃったんです…

 たまに思い出して悲しくなるけど、今は先輩のおかげで楽しいです」


そう言って、ヤマトの目に涙が浮かび、やがて溢れ出した。

自分にはまだ、そういう経験がない。だから何も言葉が出てこなくて、俺はそっと背中を撫でることしかできなかった。



しばらくしてヤマトも落ち着き、部屋でまったりしていると――


「先輩!今日はBBQだそうですよ!」


元気を取り戻したヤマトが手を引き、庭へ連れていかれる。


「すごいでしょ!」


「準備したのはヤマトじゃないだろ」


庭には信じられないほどの量の肉と新鮮な野菜が並んでいた。


「ヤマトの先輩が来るって聞いたから、張り切って買っちゃったよ。

 遠慮せずにたくさん食べてね」


おじいちゃんが炭を起こしながら笑っている。


「いただきます!」


次から次へと肉が焼かれ、どんどん皿に乗せられる。限界まで食べたところで、今度はおばあちゃんがスイカを持ってくる。


種飛ばし勝負をしたり、笑い合ったり、夏を全力で楽しんだ。


夕方の涼しい風が吹く頃、お風呂に入って部屋に戻ると、布団が敷かれていた。


「今日は本当に楽しかったな~。夏って感じだった」


「明日もありますよ。まだ海に行ってませんし!」


「だな~。楽しみだ」


満腹と疲れで布団に倒れ込む。


「先輩、一緒の布団で寝てもいいですか?」


「ちゃんとヤマトの分もあるだろ」


ちらりと見ると、少し寂しそうな顔をしていた。


「しょうがないな~、いいよ」


布団の端を開けてやると、ヤマトは嬉しそうに隣に寝転んでくる。


ここはヤマトの父親の実家――

きっと、いろいろと思い出して寂しくなるのだろう。

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