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01 救世の乙女

 1年ほど前、王国は各地で街を荒らす魔獣の害に苦しんでいた。


 そこへ突然現れたのが「救世の乙女」ラナだった。貧しい漁師の娘に過ぎなかった彼女は、ある時聖女として覚醒し、村を襲う魔獣の群れを祈りの力で退けたのだ。


 ラナは、噂を聞きつけた官吏により王都に連れて行かれ、王家直属の聖女として特別待遇を受けることになった。

 彼女は国王の庇護のもと、精力的に国を回り各地の魔獣を退治した。


 気高く可憐なその姿に国中が熱狂し、魔獣が鳴りを潜めてからも、「救世の乙女」の人気は高まるばかりであった。


 魔獣禍が収束したのち、国王は周辺国からも注目を集める聖女を確実に手元に留めておくため、彼女を王宮に召し上げた。

 そして自らの息子である王太子ロバートに、ラナに気を配り、慣れない王宮暮らしをフォローしてやるよう命じた。


 ロバートは、聖女とは言え元は平民のご機嫌とりを命じられて戸惑ったが、実際に会ってみると、貴族令嬢とは全く違う、明るく可愛らしいラナにすっかり魅了されてしまった。

 そして、彼女の後見を口実に、多くの時間を彼女と過ごすようになった。


 人懐っこいラナは、ロバートの側近候補である宰相の息子ナイジェル、騎士団長の息子リチャード、魔術師団長の息子クリストファーといった面々ともすぐに打ち解けた。

 聖女と王太子、3人の側近候補達はいつも一緒に行動し、静かだった王宮には明るい男女の笑い声が響くようになっていった。

 

 平和を取り戻した王国と、誰からも愛される聖女。全てはめでたしめでたしに思えた………の、だが。



※※※※※※※



「私のことが気に食わないのはわかりますが、そんな風に人のことを睨みつけるのはよくないと思います!」


「!?」


 王宮を訪れていた王太子の婚約者、ヘルガ・マッキンタイア公爵令嬢は、後ろから大声で呼び止められて驚いて振り返った。


 見れば、今をときめく「救世の乙女」ラナが、ヘルガの婚約者である王太子ロバートと腕を組んで立っている。


 それにしても、「睨みつける」とはどういうことであろうか。


 回廊に他に人影はなく、ラナが話しかけたのはどうやら自分で間違いない。


 とは言え、後ろから声をかけられて振り返ったのだから、ヘルガの後頭部に目ん玉が生えているのでもない限り、彼女がラナを睨みつけられるはずもない。そもそもこうして聖女と面と向かって話をすること自体、ヘルガは初めてであった。


 わけが分からず目をしばたいていると、ラナがすぐ言葉を継いだ。


「私が平民の出だからといって無視されるのですね。とても悲しいです。ヘルガがそんな人だったなんて。

 ヘルガのことはいつもロバートから聞いてたから、お友達になれたらいいなって、お会いできるのを楽しみにしていたのに。

 でも、婚約者に自分より仲良しの女の子ができちゃって、焦るヘルガの気持ちもわかります。自分の立場が無くなっちゃうって不安なんですよね!

 心配しなくていいんですよ!私たち、ただのお友達ですから!ね、ロバート!」


……声が、デカい。


 切れ目なく浴びせられる身に覚えのない非難と励まし?とナチュラルな呼び捨て行為に、ヘルガの脳は一瞬淑女にあるまじき現実逃避に陥った。


 どうにか気を取り直して、とにかく2人に挨拶しなくてはと体勢を立て直したところで、王太子が不機嫌そうに口を開く。


「国を救った聖女に挨拶のひとつもないとは。

 確かマッキンタイア領も、今回の魔獣禍では聖女にかなり助けられたと聞いているが、我が婚約者殿は私情に駆られて感謝の言葉も言えないような女だったのだな。」


「やめて、ロバート!そんな風に言ったら、ヘルガが可哀想!」


 ギュウとロバートの腕に抱き着いてヘルガを庇う?聖女の姿に、頭痛を覚えながらもヘルガは深々と膝を折った。


「大変失礼いたしました。聖女ラナ様とロバート殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう。

 申し遅れましたが、マッキンタイア公爵家のヘルガでございます。この度は」


「あっ、大変!ナイジェルたちが待ってるんだった!急ごう、ロバート!」


 バタバタバタ。ヘルガが顔を上げると、2人は彼女に目もくれず急ぎ足で立ち去るところだった。


「……………何なの?」


 あっけにとられてたっぷり3分は立ち尽くしていたヘルガの口から、思わずため息が漏れた。

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