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15 熊は美男を侍らせる


 夜会の日、ラナはフリルとリボンがたくさんついたドレスを着用し、殊更に愛くるしさを強調していた。

 王太子妃なのだから、もう少し落ち着いたデザインにしてはどうかというロバートの言葉にも耳を貸さず、今日はむやみやたらとうるうる瞳を潤ませては胸の前で手を組む仕草を繰り返している。


 可愛いんだけど、何だかな……?とロバートと側近達は首を傾げたが、ラナは「愛され聖女」として振る舞うことに必死でそれに構うどころではなかった。


 と、会場入り口の方でどよめきが起こった。

 前の夜会で例の4人が登場したときとよく似た光景だが、今回の方が心なしどよめき具合が大きい。

 ラナは一瞬、歯を剥き出してそちらを睨みつけたが、すぐに自分のスタンスを思い出し、怯えたふうを装ってロバートの腕に可愛らしくしがみついた。

 しかし、人垣が割れて4人の令嬢とそのパートナーが見えた途端、ラナは怯える演技も忘れてロバート達と棒立ちになってしまった。


 視線の先では、とんでもなく悪女然とした姿の4人の令嬢が、とんでもなく美形の青年達にそれぞれエスコートされていたのだから。



※※※※※※※



 ドレスコードを忠実に守り、今夜の彼女達の装いは黒を基調としている。

 しかし、濃いメイクに露出多めのドレス、それに高いヒールを合わせた、いかにも「悪女」といった出で立ちは、これまでの彼女達からはとても考えられない、大胆な姿であった。


 ヘルガはドレスに入った深いスリットから自慢の美脚を覗かせているし、ダイアナは軍服風のドレスに革手袋をつけ、乗馬鞭まで手にしている。

 マージョリーはメリハリボディを遺憾無く強調する胸元の開いたドレスに網タイツ、アラベラは黒レースをあしらった短めのドレスで小悪魔風に纏めている。

 夜会の男性陣の目は、完全に彼女達に釘付けだった。

 妙齢の紳士連までが興奮に目を見開き過ぎてモノクルを落っことし、横の奥方から肘鉄を食らっている。


 そして、悪女風の令嬢をエスコートするのは、並外れて美しい男達だ。

 洗練された所作で彼女達をリードし、口元には甘い笑みを浮かべてパートナーを見つめている。

 一体どこの何者なのか……彼らに向けられる会場の女性たちの視線は、もはや猛禽類のそれだった。


 悪女と美男で構成された何だかひどく現実離れした一団は、悠々とホールを横切り、主催の王太子夫妻の前に進み出ると恭しく挨拶をした。


「だ……れ……その人たち……」


 挨拶を返すことも忘れて、ラナが慄える指でエスコート役の美青年を指差す。


 無理もない。

 単純に見た目だけの話なら、彼らは自分の夫やその側近を軽く凌駕しているのだから。

 そして、礼儀正しい態度こそ崩していないが、可憐な王太子妃の姿などまるで目に入らないかのように、悪女達に熱っぽい視線を注ぎ続けているのだから。


 ヘルガが濃く紅を引いた艷やかな唇の端を吊り上げる。


「彼らは『マッキンタイア人材派遣サービス』の従業員ですわ。

 わが公爵家が中心となって取り組んでいる新事業ですの。


 この度の魔獣被害で親を失った子ども達や職を無くした人達を、各地の領主と連携の上、公爵家でひとまとめにして支援する取り組みなんです。

 現在、そうして支援している平民の中から、貴族の下で働きたいという希望者を集めて徹底教育を施しているところですの。


 今回のエスコートも実地訓練の一環ですわ。

 今日のためにわたくし達が付きっきりで指導しましたから、礼儀作法は申し分ないでしょう?……そのせいでこの子達ちょっとわたくし達に懐き過ぎになってしまいましたけれども。


 今後、催しの際の臨時雇いや、今回のようなエスコートの代役などに、こうして訓練された人材を派遣して、ゆくゆくはいずれかの貴族のお宅に雇ってもらって公爵家の支援から独立していってほしいと考えているんです。

 今日お越しの皆様にも今後派遣サービスをご利用いただければと思ったものですから、つい宣伝効果を狙って男前の従業員ばかりを連れてきてしまいましたの」


 ヘルガの言葉を受けて、男前4人が貴族達の方へ向き直って礼をとったので、会場の女性陣からは声にならない雄叫びがあがった。


「ただし」


 ダイアナがビュッと乗馬鞭を振った。


「派遣人材へのハラスメントは如何なるものでも絶対禁止とさせていただきますわ。

 この事業は、身寄りを無くしたり困窮した平民が、その立場に付け込まれて望まぬ生業に身を落とすことを防ぐためのものでもあるんです。

 平民と言えど、公爵家の名のもと保護されている大切な人材ですので、何卒ご理解くださいませ」


 ダイアナの言葉に、同じような問題に頭を悩ませている各地の領主の幾人かが納得したように頷いている。


「で、でも、何なの?その格好……?」


 ラナが今度は4人の悪女ファッションを指さす。


「ああこれですか?

 美男を際立たせるのは、やっぱり悪女かなあと思いまして。今日のところは私達はただの脇役ですから。

 まあ、常日頃世間様から悪女だ悪女だと言われている身として、一度くらい思いっきりその評価に乗っかるのも楽しいかと思いましたの。ここまでくると衣装というより、もはや仮装ですけれども」


 マージョリーはそこでクルリと会場の貴族達の方を向くと、声を高めて言った。


「ですので、今宵は皆様どうぞご遠慮なく悪女と罵ってくださいませね!悪女ポジション、精一杯相務めさせていただきますわ!

 コホン……私達を満足させる自信がお有りなら、ダンスのお相手くらい付き合ってあげてもよくってよ?」


 悪ノリしたマージョリーが悩殺ポーズをとると、会場は大歓声に包まれた。


 前回のリベンジに燃える王太子妃に対し、結局その夜一番話題になったのはどの連中だったのか………それはここで触れるまでもない。


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