『忘却の都市』 崩れゆく接点
城戸の静かな一言に、部屋の空気が完全に凍りついた。
思わず隣を見ると、夏希が硬直していた。
夏希は目を見開き、何かを否定したいのに言葉が出てこない。
その瞳に宿っていたのは、“嘘であってほしい”という祈りと、“なぜ”という叫びだった。
「また、昨日、霧崎隊員が拘束してくれた5名についてだが——」
城戸が続ける。
「彼らにも引き続き事情聴取を行っている。だが、わかったのは……彼らは、本当に何も知らされていなかった。何か陰謀論めいた事は言っていたがね。むしろ、“陽動”として意図的に噂を流す役目を負わされていたようだ。」
俺は拳を握りしめた。
もしかしたら、どこかで——うまく接触できれば、小林元副隊長から何かを聞き出せるかもしれない。
ずっとそう思っていた。
夏希が受け取った“何か”——その一端でも掴めれば、真実に近づけると信じていた。
けれど、今やその可能性も、ひとつ消えてしまった。
そして何より、隣で震える声すら出せない夏希を見て——胸の奥に、じわりと冷たいものが広がっていった。
「都市警備隊の複数名が負傷している。状況は、決して平穏ではない。」
城戸の声が、淡々と告げる。
「今後、さらなる事件が発生する可能性はある。 全員、緊張感を持って——業務にあたってくれ。」
短く、力強く。
そのまま隊長は一礼し、隊員たちは沈黙のまま立ち上がる。
誰も言葉を発さず、それぞれの顔に違う色を滲ませながら、静かに部屋を後にしようとしていた。
——その時だった。
「進藤君、霧崎君——」
城戸の声が二人の背中を止めた。
「少し、話を聞かせてほしい。」
振り返ると、その視線は鋭さを湛えながらも、どこかに微かな優しさが滲んでいた。




