『忘却の都市』JACについて
悠人もフォークを動かしながら、しばらく視線を落とし考えているようだった。
そして、不意に口を開いた。
「......なーんか空気悪くしちまったな。悪い、家族の話は無しにしよう。昔から悪い癖で何でも聞いちゃうんだよなー。悪かった。俺も親と喧嘩ばっかりして飛び出してきたようなもんだし。」
そう言って、わざと軽い口調で話題を切り替える。
「それより、仕事の話でもしようぜ。もう決めたのか?」
俺はその問いに、少し考えてから口を開いた。
「いや、まだ決まってない。」
悠人はそれを聞くと、少し楽しそうに続けた。
「そっか。じゃあさ、明日一緒にJAC(Job Assist Center)行かないか?」
「JAC?」
「ああ、住民登録時に最初に決められた仕事以外も選べる場所。希望があるなら変更できるんだってさ。霧崎も適性の仕事が合わないからまだ決めてないんだろ?俺はすでにほとんど決まってるから明日最終決定に行くんだけど、どうせだしその時、一緒に合いそうな仕事を考えてやるよ!」
悠人はそう言いながら、コーヒーをひと口飲む。
少し考えた後、俺は曖昧に頷いた。
「…そんな仕組みがあるんだな。」
悠人は少し怪訝そうな顔をしながら俺を見てため息をつく。
「俺、この都市に来る前にめっちゃ調べたんだよ。仕事の仕組みも、生活環境も、都市の雰囲気も……この店だってそうだよ。なんせ行ってみたいカフェランキング1位だからな!だからこういうのは当然知ってたんだけどさ……逆にお前、何も知らない状態でここに来たの?」
俺は言葉に詰まった。
「……まあ、正直そんな感じだな。」
悠人はそれを聞くと、呆れたように笑いながら肩をすくめた。
「俺は必死に調べて都市に来たっていうのに……」
そう言いながら、悠人は再び軽く笑った。
俺もなんとなく薄く笑いながらコーヒーを飲む。
とりあえず確かに悠人の言う通り、仕事をしないと生活は出来ない。
何よりこの都市に来たのは仕事に就くためだ。
明日の朝時間を決めて会う約束をしその日は別れた。