『忘却の都市』誘いと食事
ピンポーン——。
昼過ぎ、再びインターホンが鳴る。
軽く伸びをしながら玄関へ向かい扉を開けると、そこには先程の青年が立っていた。
「早速だけど飯でも行こうぜ?さっきのお礼に奢るよ。」
彼は相変わらず軽い口調でそう言った。
「え、まさかもう昼は食ったか?いや、まあ食っててもいいけどさ。ちょっと街を散策がてら、一緒にどう?」
一瞬考えたが、食べてなかったし断る理由もなかった。
「行くよ。」
そう答えると、彼は満足そうに頷いた。
「決まり!今から行く所は、いい雰囲気の店だから楽しみにしとけよ!」
俺は軽く息を吐きながら、玄関を閉めて彼とともに外へ出た。
そして数分ほど歩いて、俺たちはカフェに入った。
木と緑を基調としたオシャレな内装。
静かな音楽が流れ、客たちは食事を楽しんでいる。
彼はカウンターで注文を済ませると、テーブル席へと座った。
「な?悪くないだろ、このカフェ。設備も快適だし、店員の対応もスムーズだし、理想的な店って感じだよな。」
俺は曖昧に頷く。
今日来たばかりのはずの彼がこの店を知っていることに、ふと疑問を覚えながら。
確かに、全てが整っており不快な要素は何もない。
彼は話を続ける。
「そういえばこの都市、仕事もさ、自動で最適な職場選んでくれるんだろ? マジすごくね?」
俺はフォークを動かしながら、その言葉に疑問を投げかける。
「……それ、どうやって決まるんだ?」
「さあ、詳しくは知らないけど、その人のこれまでの人生とか経歴から分析してくれるらしいよ。基本的には最初の住民登録時点でほぼ決まるって話だな。」
俺は少し考えたあと、頭の奥で何かが引っかかった気がした。
そういえば仕事のためにこの都市へ来たはずなのに、なぜか肝心な事がぼんやりしている。
そもそも、俺はこの都市で何をするつもりだったんだ…?