『忘却の都市』出会い
静かな朝だった。
窓の外に広がる都市は、まだ薄い光に包まれ、街の流れはゆっくりと目覚めつつあった。
ベッドの中で微かに意識を取り戻しながら、ぼんやりと天井を見つめる。
「……朝か。」
昨夜は引っ越しの疲れもあって、すぐに眠りについた。
しかし、完全に目が覚めるにはまだ時間がかかりそうだった。
枕元の時計を見るが、まだ早朝。
「あと少し寝ても……」
——その瞬間。 ピンポーン——。
軽い電子音が、寝起きの意識に鋭く響いた。
「インターホン?」
半分寝ぼけたまま、ゆっくりと体を起こす。
一体、朝っぱらから誰が訪ねてきたのか。
不機嫌そうに髪をかきながら玄関へ向かうと、ドアの向こうで微かに人の気配がする。
モニター画面に映し出されたのは、
——知らない顔だった。
黒髪は少し乱れ、表情には焦りが滲んでいる。
何かを言っているが、インターホン越しでは聞き取りづらい。
俺はゆっくりとドアに手をかけた。
「あー助かった!」
目の前の青年が、ほっとした表情を浮かべる。
「あ、ごめん、いきなりで……。俺は『早川 悠人』って名前で今日このマンションに引っ越してきたんだ。でも、大家さんと鍵の受け取り時間を間違えたみたいで、まだ家に入れなくてさ。」
彼は両手に荷物を持ち申し訳なさそうに笑いながら、額の汗を拭う。
何か言いたげな彼に事情を察したが、あえて俺からは何も言わない。
彼は、少し間を置いてから言った。
「ええと……。入れてくれない?」