『忘却の都市』都市への移住
「よっこいしょっ……と。」
重たい段ボールを床に置き、深く息を吐いた。
まだ細かい整理は残っているが、午前から続いた搬入作業がようやく終わったため、ひとまず一息つく。
「ふぅ…ようやく少し落ち着けるな。」
簡素なテーブルに腰を下ろし、背中を伸ばす。
新しい都市、新しい生活。ここからが本格的なスタートだ。
霧崎 凛——この都市に移り住んだ新入りの住民。 仕事を探す為にこの都市へ来ることになり、今朝、正式に住民登録を終えたばかり。
都市の構造は整然としていて、すべてが合理的に配置されている。
住民同士の会話も形式的で、どこか機械的な印象すら受けるほどだ。
とはいえ、慣れてしまえば快適な生活が待っているのだろう。
設備も整っているし、利便性は申し分ない。
窓の外を見れば、統一された都市が広がる。
白い建物、整然とした道路、人々の流れるような動き——。
「ま、悪くない場所かもな。」
軽く息をつきながら、カップの中の水を一口飲む。
どんな日々になるかは分からないが、まずはこの環境を楽しむことにしよう。
そんなことを思いつつ、再び作業を始めた。
それからしばらくして、窓から少し夕焼けが差してきた。
「さて、とりあえず一通り終わったか。」
室内を見渡し、部屋の外へと出ることを決める。
都市の空気を感じながら、広がる街並みをゆっくりと見渡すとそこには、夕焼けが都市を染め上げ、どこか幻想的な風景が広がっていた。
住民たちはゆったりとした歩調で移動しており、規則正しく、秩序の中で静かに呼吸しているようだった。
「……すごいな。」
思わずその美しさに驚いた。
都市は想像以上に発展しており、歩道は清潔で、交通の流れも計算されたようにスムーズ。
あらゆる場所で最新の技術が組み込まれ、合理的なシステムによって支えられている。
凛にとって、この都市の整然とした美しさはまるで別世界のようだった。