『忘却の都市』 指導員との出会い
黒い制服を身にまとい、俺は施設の外へと足を踏み出した。
すると通路の先には、すでに待っていた人物が立っていた。
金髪ショートの女性。
腕を組みながら、軽い笑みを浮かべている。
その雰囲気は、どこか友達のような親しみやすさを感じさせた。
俺が近づくと、彼女は軽く手を上げる。
「君が霧崎凛?私は『進藤 夏希』。今日から君の指導員よ」
気さくな口調に少し驚いた。
さっきの男の雰囲気からして都市警備隊の指導員は、もっと厳格で堅苦しい人物だと思っていた。
夏希は俺の戸惑いを察したのか、クスッと笑う。
「そんなに緊張しなくていいよ。まあ、仕事は大変だけどね。」
そう言いながら、彼女は冗談交じりに溜息をついた。
「基本的な仕事内容は、さっき聞いた通り。まあ、ある意味なんでも屋だね。都市を見回って困っている人がいれば助けてあげるし、変な奴がいれば調査、必要があれば捕縛・連行って感じかな。この都市の住みやすさや秩序を守る為に色んな仕事をこなすイメージ。」
彼女は得意げに続ける。
「あとは、端末の操作だね。通信機能や都市全体図、ターゲットの位置把握等、仕事に役立ちそうな機能は全部あるよ。操作はやりながら覚えてもらうのが早いかな。何かここまでで質問ある?」
あまりにざっくりとしている気がするが、おおよそは分かった。
……だがしかし、疑問が残る。
「えーと......ひとつ聞いてもいいですか?捕縛・連行とか今までやった事がないんですが、素人に出来るんでしょうか?」
これまで警備業などについたことが無い為、当たり前だがそんな行為をやった事がない。しかも、目の前の女性が正直そんな怪しい人達を捕縛・連行できるように見えない。
「あれ、聞いていないの?あの堅物ハゲ、説明こっちに全部任せて......」
何やらめんどくさそうに小言を呟いている。
「ああ、ごめんごめん。今のハゲっていったのは内緒ね。えーと、多分制服渡される時に、なんか首につけるチョーカーみたいなの渡されたと思うんだけど。」
確かに渡されて必ず身につけるように言われた。
都市警備隊の証だから、四六時中常につけているようにと。
「それ外せないでしょ。」
「……え?」
咄嗟に首元に手をかけて、外そうとするが...外れない。
いつの間にか切れ目もなくなっており、外せなくなっている。
「これは一体......?」
「いくら都市警備隊の証とは言え、普通こんな怪しげなもの何の説明も受けずにつけないんだけどね......それが爆弾だったらどうするの?」
確かに言われた通り、これが危険なものだったら一発アウトだ。
あの場の雰囲気に流されて言われるがままつけたけど、完全に油断していた。
「ま、安心して。爆弾ではないから。」
そういって、彼女は笑う。
「むしろ私達にとってかなり大事なもの。そうね......じゃあ、今から10数えるから私から全力で逃げてくれる?」
「……は?」
理解が追いつかない俺をよそに、夏希はすでに指を立ててカウントを始めていた。
「いーち、にー……」
冗談かと思ったが、どうやら本気らしい。
俺は訳が分からないまま、とりあえず彼女とは逆方向へと全力で走った。
足音が都市の静寂に響く。
「じゅーう!」
その瞬間——。
気づけば、俺は地面に組み伏せられていた。
背中に圧がかかる。片腕は捻じられ、身動きすらできない——。
そして——耳元で聞こえた声。
「ね、すごいでしょ。」
夏希は軽く笑いながら俺を見下ろしていた。
俺は唖然としながら、ただ地面から見上げるしかなかった。




