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第一章5「少しずつ変わりつつある関係」

 ふじ義弘よしひろが中間テストの対策を本格的に始めてから、早くも一週間……。


「よし、ひとまず休憩だ……」


 僕の机には、参考書や教科書の束が山積みになっている。

 この前、白石しらいしさんが買ってくれた参考書は、思った以上に勉強のペースを早めてくれた。

 でも、その分、勉強に夢中で休憩や睡眠時間がおろそかになってきている……。

 学園でも授業中に居眠りしそうになったことがあり、これでは本末転倒だ……。


 僕は気分転換に窓の外に目を移す。

 すると、ちょうど下校中の小学生たちがシェアハウスの前を通っていた。

 ワイワイと騒いでいる小学生もいれば、落ち着いた小学生もいる。

 でも、その中に……。一人だけ、ボロボロのランドセルを背負っている男の子の小学生がいた。

 恐らく、五、六年生くらいの小学生で、ワイワイと騒ぐ小学生たちの輪から外れて、一人だけ浮いているようにも見える。

 すると、その小学生に、一人の大柄な男の子の小学生が近づく。


「おい、オマエ! 何だよ、そのランドセル? きったねえな!」


 大柄な小学生が、ボロボロのランドセル背負った小学生に悪口を言っている。

 そして、言われたボロボロのランドセルを背負った小学生は――。


「これはママが買ってくれた大切なランドセルなんだよ! ボクの家はビンボーで、お金がないから、このランドセルはボクの宝物なんだ!」


 あの小学生は、大柄な小学生に向かって、必死の反抗を見せる。


「しっかりした小学生だな……」


 僕は思わず、そうつぶやいてしまった。

 その後、悪口を言った大柄な小学生は、近くにいた女の子の小学生にしかられた。

 そして、ボロボロのランドセルを背負った小学生は、その叱ってくれた女の子と楽しそうに会話をしながら帰っていった。


「あんなところでも、格差があるんだな……」


 貧富の差は、どんどん広がっていると聞く。

 まさか、その影響がこんな目の前で見れるとは思わなかった。

 僕だって、貧富の差では、確実にマイナス側の位置にいる人間だ。

 だからこそ、今のうちに勉強をして、安定した生活を手に入れたいと願っている。


 でも、本当にそれだけでいいのだろうか……?


 すると、僕がそう思ったところで――。


「あ、義弘君、いるー?」


 ドアの外から白石さんの声が聞こえた。


「な、何だ?」


 彼女が、僕の部屋に来るのは珍しいことではない。

 またちょっかいをかけに来たのか……と思ったが、無視するのも悪い気がしたので、ドアを開ける。

 すると――。


「やっほー、三藤! アタシも来ちゃったよん♡」


 ドアの前には、白石さんだけでなく、月森つきもりさんも一緒だった。


「ふ、二人とも、どうしたんだ?」


 美少女二人組がそろって僕の部屋に来るのは珍しい……。

 それに、なぜか彼女たちの手には、筆記用具とノートがある。

 何だ……? 二人揃って、何をする気だ……?


 僕が不審に思っていると、白石さんが――。


「勉強、教えてくださいな!」

「え?」


 思わず、変な声が出てしまった。

 すると、そんな僕に、月森さんが――。


「何だよー、その顔! アタシたちが、全く勉強しない馬鹿だとでも言いたいわけー!? ……確かに、馬鹿だけど」

「いや、そうじゃなくて。何で僕に勉強を教えてほしいんだ?」


 僕がそうくと、今度は白石さんが――。


「だって、義弘君と一緒に勉強したくなったんだもん……」

「僕と一緒に勉強?」

「そうだよー。最近、義弘君が全然構ってくれないから、寂しくなったんだよー」

「はあ……。そんな理由かよ……」


 てっきり、白石さんも中間テストで良い点を取りたいから、と思っていたが違ったみたいだ……。

 すると、月森さんが――。


「あ、アタシもさ……。三藤が頑張ってるのを見て触発された……っていうか。アタシもテニスだけの女じゃなくて、勉強も頑張ろうって思ったの!」


 彼女は、まだマトモな理由だった。

 しかし、そんな月森さんに、白石さんが――。


「とか言ってぇ、ちょっと前まで"三藤が構ってくれなくて寂しいよぉ"とか泣きついてきたくせにー」


 白石さんが、ニヤニヤしながらそんなことを言う。

 そのせいで、月森さんの顔が一気に赤くなってしまう。


「ち、ちち、違うって! アタシ、そんなこと一度も言ってないから! ホントに、ただ勉強を教えてほしくてとつっただけだからね!?」

「またまたそんなこと言ってぇ……。いっつも、勉強が分からないとき、義弘君に助けられてるもんねー。紗玖美さくみちゃんも、義弘君のこと狙ってるでしょ?」

「だーかーらー、違うってええ! そもそも、アタシが三藤にちょっかいをかけるのは、反応が面白いからで――」

「二人とも落ち着け……」


 このままではらちが明かないので、二人の会話を止める。

 まだ夕飯の時間には余裕があるので、勉強を教えるくらいならできそうだ。

 それなら、自分の勉強も兼ねて二人に勉強を教えるのも悪くはない気がした。


「……まあ、別に人に勉強を教えるのは嫌ではないから、とりあえず入れよ」


 僕がそう言うと、二人ともうれしそうに頬を染める。


「やったー! な、何か、義弘君。前よりも優しくなった、よね……?」

「はっはーん。もしかしてぇ、アタシたちのあふれ出るチャーミングポイントに気づいちゃったのかなー……?」


 二人にそう言われて、僕はハッとなってしまう。

 しまった……。何を血迷ったことを言ってるんだ、僕は……。

 だが、言ってしまったことは取り消せない。ここは、素直に二人を部屋に入れるしかないな……。


「か、勘違いするな。僕が勉強を教えるのは、あくまでも君らに勉強の大切さを教えるためで……」


 僕が、そうまくし立てると、二人は――。


「はいはい。じゃあ、その勉強の大切さとやらを教えてくださいなー」

「ふふ。ホントは死ぬほど嬉しいくせにー、この、このー!」


 これ、完全にめられているな……。


「う、うるさいな……。勉強が済んだら、さっさと帰れよ?」


 全く……。女は調子に乗ると、すぐにこれだ……。

 このままでは、風花ふうかのときと同じ道を歩んでしまうな……。

 女に振り回されるのは、もうゴメンだ。

 だから、僕は再び心にふたをして、彼女たちを部屋に入れた。


 すると、部屋に入った途端――。


「「えい!」」


 ピトッ!


 完全に不意を突くタイミングで、白石さんと月森さんが体を密着させてきた。

 右腕に白石さん、その反対側に月森さんが体をくっつけてくる。

 そのせいで、僕の両腕が彼女たちに占領されて、二人の体温が直接伝わってきた。

 僕よりも頭一つ分身長が低い彼女たちは、僕の腕の中にスッポリと収まってしまう。


「な、何のつもりだ……?」


 僕がそう訊くと、二人は――。


「このまま、私と紗玖美ちゃん、二人とも本物の"彼女"にしちゃう? ふふ……」

「その……。あ、アタシは別に……。彼女とかはどうでもいいんだけど。冬音ふゆねっちが、どうしてもって言うなら、アタシ……」


 彼女たちは、危険な香りをまとわせている……。

 僕はそれを目の前にして、言葉が出なくなっていた。


 そして、悟ってしまった。

 この先、勉強どころではなくなるだろうと……。


 何を考えているんだ、白石さん……。

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