表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

第一章2「嵐の前の静けさ」

「いい加減、私と付き合ってよー!」

「いい加減、僕につきまとうなよ!」


 ふじ義弘よしひろにとって、恋愛は邪魔でしかない。

 二年前に幼馴染であるふうに裏切られ、それから恋をするということが愚行にしか思えないのだ。


「私じゃ、駄目なの……?」

「駄目」

「即答じゃん!?」


 しかし、この白石しらいしふゆさんという"見た目だけ"は良い女の子……。

 彼女は、自分の考えをなかなか曲げてはくれない。

 僕は共同用のリビングへと逃げたつもりだが、それでも彼女はピッタリとついてくる……。


「……なんでついてくるんだよ?」

「義弘君のこと、好きだから」

「まだそんなこと言ってるのかよ……」

「悪い?」

「悪いも何も、僕は彼女なんていらないし、別に白石さんのことは好きでもなんでもないんだよ」


 特待生を狙うために自室で勉強していたのに、白石さんがちょっかいをかけてくるせいで台無しだ。

 だから、場所を変えてみようと試みたのだが、全然状況は変わらない……。

 すると、白石さんは――。


「風花ちゃんのこと、まだ心残りなの?」


 あたかも、僕が未練がましいような言い方をされる。


「とっくに終わったんだよ、風花とは……。それに、アイツは今頃、りゅうと天国で幸せになってるよ……」


 悔しいけど、それが現実だ。

 だが、これは悲しみではない。

 そう……。僕にとっては、恋愛なんていう幻想に囚われずに、目の前の課題を超えるという大きな指標に気づかせてくれたのだ。

 だから、その点に関しては、本当に彼女に感謝している……。


 そう思っていると、白石さんは――。


「じゃあさ。私たちも風花ちゃんたちに負けないように"二人"で幸せになろうよ!」


 そんな気の抜けたことを言ってくるのだった。


「僕は"一人"でも幸せになれる」

「でも、"二人"なら幸せも二倍だよ?」

「そうとは限らない」

「むー……。夢が無いなー……」


 そう言いながら、白石さんは自分の腕を僕の腕に絡ませて密着してくる。


「ひ、ひっつくな!」

「ほら! こうやって、二人でくっついてると、すごくあったかいでしょ? 義弘君のこと、あっためてあげるよ!」

「これから暑くなるから、冬までいらんだろ」

「じゃあ、冬になったら私と結婚してくれるの? ふふ、式は教会? それとも、神社?」

「何でそうなるんだよ!? 話が飛躍しすぎだ! そもそも、何でそこまで僕に執着してくるんだよ?」


 僕の質問に、白石さんは「ふっふっふ」と不敵な笑みを浮かべる。


「よくぞいてくれたね! 私が義弘君のことが超絶大好きな理由! ちゃんと聞いてくれる?」

「ある程度はな……」


 僕がそう口にすると、彼女はクスクスと笑うのだった。

 どうせロクなことを言わないだろう。所詮しょせん、女なんてうそつきな生き物だから……。


「……覚えてる? 昔、義弘君と私は同じ中学だったんだよ? クラスは残念ながら違ったけどね」

「あれ……。いたっけ?」


 当時のことを思い出すが、白石さんがいた記憶が一切無い。

 クラスが同じでは無かった、ということだが、それならどこで僕と接点を持ったのか……。


 すると、疑問符を浮かべる僕に、彼女はムッと頬を膨らませるのだった。


「もうー、覚えてないのー? 私、風花ちゃんとは仲良くて、よく一緒に風花ちゃんと遊んでたじゃん!」

「いや……。風花は誰とでも仲良かったから、誰と遊んでたか、とか覚えてないよ……」

「じゃあ、友達のうちの一人だと思って!」

「お、おう……」


 風花は明るい性格もあってか、友達は多かった。

 今思えば、僕もその一部に過ぎなかったのかもしれない……。

 こういうことは、過ぎたことでも気づきたくないものだ。後味が悪い……。


 すると、白石さんは――。


「私ね……。風花ちゃんが羨ましかったの」

「羨ましい?」

「だって……。義弘君の"幼馴染"だったから」


 白石さんは、どこか感慨深そうに口にする。


「幼馴染だから、何だっていうんだよ?」

「その特別な関係があったから、真っ先に義弘君に好きになってもらえた……。それが、私には羨ましくて仕方がなかったの」

「僕に好きになってもらえたって……。何で僕に好きになってもらいたかったんだ?」


 僕が疑問をぶつけると、白石さんはあきれたように大きなため息をついた。


「鈍いね、義弘君は……。そんなの、私が義弘君のことを好きになっちゃったからに決まってるじゃん」

「僕のことが好き……?」


 ほぼ接点が無いのに、僕のことをここまで好きになるなんて、過去に何があったんだ、一体……。


 僕がそんな疑問を浮かべていると、白石さんは――。


「あーもう……。そこまで鈍感だと、何か話す気が失せちゃったなー……。まあ、とにかく……。私、義弘君のこと諦めるつもりは無いから、これから覚悟しててね?」

「は、はあ……」


 白石さんは絡めていた腕を解放すると、自分の部屋へと向かっていく。

 そして、部屋の前でこちらを振り返ると――。


「次、会うときは、ソファーに気をつけてね。ふふふふふ……」

「そ、ソファー?」


 何やら警告のようなことを口にしてから、今度こそ自分の部屋に戻っていった。


「何だったんだ……?」


 結局、一番知りたかった部分は明らかにならずに、会話が終了してしまった。

 白石さんが僕のことを好きになる理由……。

 そんなの、いくら考えても分からない……。

 今回で分かったのは、白石さんと風花が過去に接点があったことくらいだ。


「それにしても、白石さんが"彼女"か……」


 確かに、あんな美少女が自分の彼女だったら、普通なら舞い上がるだろう。

 だが、僕にとって恋愛は障害……。自分にはやるべきことが山ほどあるのに、そんな幻想に時間を使っているヒマは無い……。


 そう考えていると、突然――。


「彼女できたの、三藤……」


 背後から冷たい声がした。

 そのせいで、反射的に飛び跳ねてしまった。


「つ、月森つきもりさん!? いつからそこに……」


 背後に立っていたのは、薄茶色の長い髪をリボンでくくって、大きなポニーテールにしている女の子。

 その女の子の名前は、月森つきもり紗玖美さくみさん。このシェアハウスの同居人の一人で、同級生だ。

 そんな月森さんも、白石さんに負けないくらいスタイルが良く、顔立ちも何もかもが黄金比でそろっている……。


 ただ、唯一許容できないのは――。


「な、何、その格好……?」


 なぜか、月森さんは"メイド服"姿だったのだ。

 しかも、健康的な膨らみを見せる彼女の胸元が半分くらいはだけていて、スカートもミニ過ぎる。

 そのせいで、上と下の危ない領域が見えかけている……。

 下品すぎる……。これは、僕のことをからかっているのか……?


 そう思っていると、月森さんが――。


「じゃじゃーん! どう? アタシのメイド服姿!」


 体を左右に踊らせて、自分のメイド服姿を執拗しつようなくらい見せつけてくる。

 そのせいで、彼女の膨らみが大きく揺れて、更に下品なことに……。


「意味分からん」

「何でよー! 普通、健全な男子なら、鼻血流して"尊い!"とか"ありがとうございますっ!"とか言うじゃん!」

「いや、下品すぎるわ……」


 素直に思ったことをぶつけてやると、月森さんは――。


「ちぇー。せっかく、三藤が喜ぶと思って、貯金崩して通販で買ったのになー……」


 すごく残念そうに肩を落としてしまう。


「残念ながら、僕に色仕掛けは通用しない。ほら、早く着替えてくれ」

「もう、素直じゃないなー、このー! ホントは、こうやってアタシにご奉仕してほしいくせにー……」

「近寄るな」


 月森さんはニッと笑うと、体を密着させてくる。

 白石さんを初め、何でこのシェアハウスには、こんな変な女の子しかいないんだ……。


 僕がそう思っていると――。


「そうだ! メイドなら定番のアレ、やってあげる!」

「アレって?」

「おかえりなさいませ、ご主人様♡」


 月森さんは両手でハートマークを作り、上目遣いでウィンクしてくる。

 その愛嬌あいきょうのある仕草と、月森さんのビジュアルの良さが合わさって、実に危険な空気を醸し出している。

 確かに、死ぬほど可愛い……とは思うが、僕にはびているようにしか見えない……。


「そういうのは、そういう店でやってくれ」

「あー、逃げないでよー。まだまだ三藤と話したいことたくさんあるのにー……」

「じゃあな」


 僕は冷たく言い残すと、自分の部屋へ戻ろうとする。

 しかし、その途中で――。


「待ってよ」


 月森さんに、ガシッと肩をつかまれる。

 しかも、腕に力が入っており、結構痛い……。


「痛いって! 何するんだ――」

「彼女、できたの……?」


 僕が言い終わる前に、月森さんは冷たい口調で言ってくる。

 彼女は、さっきとは打って変わって、すごく真剣そうな顔を向けてくる。

 何だか、いつもの月森さんらしくないな。こんなに、不機嫌そうなのは……。


 そう思っていると、月森さんが――。


「ねえ、答えて。彼女、できたの?」


 これ以上無いくらいに、念入りにいてくる。


「いや、いないけど?」


 正直に答えると、月森さんの表情が少し緩んだ。


「そう……。なら、良かった」

「な、何でそんなこと訊いてくるんだよ?」


 僕が疑問をぶつけると、月森さんは――。


「三藤……。これからは、安易に彼女なんて作らない方がいいよ? このシェアハウスが"修羅場"になるから……」


 そんな意味の分からないことを口にするのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ