表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ずっと隣にいたのに、あなたの瞳は私を映さない~届かない恋を抱きしめて~


 夕暮れの光が教室に差し込み、机の影を長く伸ばしていた。


「玲奈、聞いて!」


 美咲の弾んだ声が、二人しかいない教室に響く。


「どうしたの?」


「悠真先輩と付き合うことになったの!」


 その瞬間、世界が静止した気がした。


「……え?」


「ついに昨日、思い切って告白したんだけど、OKもらえたの!」


 美咲は頬を紅潮させ、嬉しそうに笑う。


 私は、かろうじて唇を動かした。


「……そっか。おめでとう」


「ありがとう!」


 美咲の声が、遠くに聞こえる。


「もうね、ずっと好きだったから、本当に信じられなくて……夢みたい!」


 彼女の幸せそうな顔が眩しすぎて、目を逸らしたくなった。


 悠真先輩——私がずっと片想いしていた人。


 「好きな人」の話の時に、先に美咲に言われ言い出せずにいた、美咲は何の迷いもなく、真っ直ぐに気持ちを伝え、彼を手に入れた。


「ねぇ、玲奈。今度、デートの相談乗ってくれる?」


「……うん」


 言葉を絞り出すようにして、笑う。


 大丈夫。大丈夫。


 私は、美咲の親友だから。


 それから、美咲は悠真先輩との話ばかりするようになった。


「ねぇ、玲奈! 先輩、意外とコーヒーより紅茶派なんだって!」


「へぇ……そうなんだ」


「うん、この前一緒にカフェ行ったときに知って、ちょっと意外だったなぁ」


 彼の新しい一面を知るたび、美咲は嬉しそうに報告してくれる。


 そのたびに、私は何度も心が削られるのを感じた。


 本当は、私が知りたかったこと。


 私が隣で知っていきたかったこと。


 でも、それはもう、美咲のもの。


「玲奈、聞いてる?」


「あ、ごめん……ちょっと考え事してた」


「もー、ちゃんと聞いてよ! 大事な話なんだから!」


 そう言って笑う美咲に、「うん、ごめんね」と返す。


 本当は、もう耐えられないのに。


 放課後、一人になりたくて図書室へ向かった。


 本を読む気にもなれず、ただぼんやりと窓の外を眺める。


 そんなとき——


「玲奈?」


 その声に、心臓が跳ねた。


 振り向くと、悠真先輩が立っていた。


「先輩……」


「こんなところにいるなんて珍しいな」


「……ちょっと静かなところにいたくて」


 先輩は私の隣の席に座った。


「玲奈、最近元気ないな」


「……そんなことないですよ」


「美咲も心配してた」


 私は視線を落とした。


「……大丈夫です」


 どうして、そんなに優しいんですか。


 どうして、私をそんなふうに気にかけるんですか。


 優しくされるたび、期待してしまいそうになる。


 でも、その隣には——美咲がいる。


「先輩」


「ん?」


「……美咲のこと、大切にしてくださいね」


 自分でも驚くほど、落ち着いた声が出た。


 悠真先輩は、一瞬だけ驚いたような顔をして、それから微笑んだ。


「ああ。もちろん」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が張り裂けそうになった。


 分かってた。


 知ってた。


 でも、やっぱり苦しくて——。


「じゃあ、私、先に帰りますね」


「玲奈」


 呼び止められる。


 けれど、振り向く勇気がなかった。


「……無理するなよ」


 背中越しに、優しい声が降る。


 私は振り向き、小さく笑って、何も言わずに走り出した。


 家に帰って、一人になると、堰を切ったように涙が溢れた。


 好きだった。ずっと、好きだった。


 それなのに——。


「……バカみたい」


 分かってたのに。


 叶わない恋だって、最初から知ってたのに。


 それでも、好きだった。


 悠真先輩が、美咲を好きになる前から。


 美咲が彼を好きになる前から。


 私は、ずっと——。


 枕に顔を埋めて、声を殺して泣いた。


 誰にも知られないように、誰にも気づかれないように。


 だって、私は、美咲の親友だから。


(終わり)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ