表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Ending Note  作者: 四 詢
1/20

1.日常

 

 物心ついた時からずっと、少しでも早く幸せなうちに消えてしまいたいと思っていた。

 そう思うようになったのははっきりとした理由があった訳でも無く、突拍子もなかった。

 初めてはっきりと感じたのは、中学の卒業式の日だった。人生で初めて感無量という気持ちが沸いた。

 今考えると、そんなにあのクラスメイト達が、先生が好きだったわけでは無い。だが、3年間を共に過ごしたこのメンバーが揃って、この場所で時間を同じくする事は無いのだと感じた時、「ああ、もうここでピッタリと時間が止まればいい。いっその事隕石でも落ちて全てをもう終わりにしてくれ。」と思った。

 なぜそう思ったのかは分からない。しかし、14歳の自分は卒業式というこれからの未来が待っている門出とは対照的に、時が止まる事を願った。

 そして、そんな風に考えるのは俺だけだったようである。隣に目を向けると同級生たちは皆いきいきとした表情を浮かべこれから自分たちに待ち受ける未来に希望を抱いているかのようだった。

 それからはことあるごとに俺の頭の中を“終わりにしたい”という感情が占拠した。高校の日常は平凡ながらも同級生たちと共に勉学に励み、体育祭や文化祭といったイベント事は人生のボーナスステージともいってよい楽しい時間だったことには違いない。

 しかし、やはり、そのような幸せな時間にももう終わりにしよう、このきれいな気持ちのまま終わらせてほしいと願う自分がいた。

 だが、決定的な行動をしないのだから、当然ながらいくら待てども終わりはやって来てはくれない。

 そして、毎朝、目を覚ます度に与えられた1日を甘んじて受入れるのだった。


 高校を卒業後は、これといった夢や目標は無かったが、周りに流されるように、なんとなく興味のある心理学を学ぼうとなんとなく大学生になった。

 そして相変わらず終わりたがりな俺は、野草も顔負けなほどにぴんぴん生きている。

 なんとなくで生きているくせに、大学にまで進学するとは、親のすねは死ぬまですり減らすという心意気らしい。生きたいのか死にたいのか自分でもよくわからない。そんな、自分で終わらせる事もしないが、始める事もない自分に疲れてしまっていた。

 ただ、いつ終わってもいいからこそ後先考えず何でもやってみたいのかもしれない。きっと、いや確実に、俺は長生きしないから社会にでても税金を納めるだけで、年金も貰えやしないんだ。

 だから生きているうちは利己的になってもいいだろう。

 

 なんとなくの大学生になっただけで取り留めることのない俺は次の講義はなんだったかと考えながら、いつも講義の合間に時間を潰している大学内の図書館のテラス席でヤクルトにストローを刺す。

 人間は腸が要らしいからな、鍛えておかねば。

「おっはよーさん。」

 ぼうっとしている俺の隣の席にドカッと遠慮もなしに座ってきたのは、同じ学部の友人乙葉大雅(おとはたいが)だ。図書館のテラス席は大雅との待合せ場所でもあるから驚きもしない。

「おはよ。」

「またヤクルトかよ。お前、乳酸菌過信しすぎだろ。」

 そういいながら無邪気な笑顔を見せてくる。

 朝から満点の笑顔だが、乳酸菌を軽んじるな。今はお前の方が外見的にはちょっと俺よりも秀でているが、腸内環境を整えると後々加齢の度合いが変わってくるんだからな!

 根暗の自分とは違って悩みのなさそうな、今どきの薄っぺらい若者代表といった大雅とは腐れ縁で、中学からの古い友人だ。最近は髪を明るくアッシュグレーに染め、流行にも敏感で今日はシンプルながら若者の間ではやっているスエットを身に付けており、ザ・大学生を体現している。

「大雅、今日は珍しく2限に間に合ったんだな。」

「ああ、昨日サークルの後輩の、りえちゃんをやっとご飯に誘えそうってとこだったんだけど、りえちゃんのお兄ちゃんが急に体調が悪くなったとかで・・・って、お前聞いてないじゃん。」

 リア中の会話は聞くに耐えない。真面目に聞いていたらせっかく摂取した乳酸菌も死滅してしまうだろ…。俺の指は自然とスマホを操作していた。

 しかし、大雅は飽きないのか、いつも色んな女の子に手を出そうとアプローチをかけまくっている。そしてこうした類の話題は毎回代わり映えしないつまらない話だ。

 ズズズとヤクルトを飲み終えると俺は次の講義に出る為席を立った。

「ほんとに懲りないな。毎回違う女の子の名前言ってるけど、その適当さが相手に伝わってんだよ。」

「いやいや、俺は博愛主義なの。みんな毎回全力で本気で愛してるんだから。」

 なんて薄っぺらい”愛”なんだ…。

 でも大雅のこの適当さには正直羨ましさも感じている。なんていうか、自分の人生を楽しんでいる感じがする。でも最近話した女の子はトイレ清掃のおばちゃんという俺は負けた気がするから羨ましさなんて絶対出してやらないぞ。

「もうまた、そんな軽蔑した顔して!あ、次はゼミか。・・・菅ちゃんゼミかよ!ずり~な~~~。なんで俺が落ちてハルが受かってんだよ。クールビューティーも捨てがたいなあ。」

 先ほどの俺の指摘は一切答えなかったようだ。まともに返答するのもばからしい。

「言ってるそばからそれかよ…。」

  人類が全て大雅になったら、文明は発達しないだろうが戦争も起きないだろうな。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ